最終回
俺は無言で会長の隣に腰掛けた。
横顔が赤茶色の髪で隠れ、その表情は
もうすぐ夏だというのに、地べたはひんやりと冷たく感じた。
「……会長、すいませんでした。変なこと口走って」
「……」
会長は何を言うでもなくボーッと自身のつま先を眺めていた。
そっと会長の手がつま先に触れた。
……俺はこれ以上、彼女に何を言えばいいのか分からなかった。
会長は明らかに作り笑いと分かる表情を俺に向けた。
「……右京くんがアタシのこと好きじゃないってのは知ってたけど……改めて言われるとやっぱり辛いなぁ……」
「……」
その表情があまりにも痛々しくて、俺は会長から目を逸らしてしまう。
罪悪感で胸がいっぱいになった。
「好きなんだよ、ほんとに……」
会長の目から再び涙が
それを隠すかのように会長は膝を抱え込んで顔を
ふと、ここで告白すれば少しは慰めになるだろうか、などという最低な考えが思い浮かんだ。
俺はその考えを振り払うかのように首を振った。
今の俺には会長に告白する権利などない……あるはずがなかった。
「あの、会長」
「……なに?」
「……俺も好きな人がいるんですけど、最近振られたっていうか、振られたみたいな感じになって……」
「……保健室の先生?」
「いや違いますから。……とにかく、その人は俺のことを意識もしてくれてないんです。会長は、苦手って言われただけじゃないですか。嫌いとまでは言われてないんだから、そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ」
「……」
顔を上げた会長の頬は涙で湿っていたが、それでも先ほどよりはマシな表情になっていた……と思う。
それから俺は会長と色々な会話を交わした。
右京との出会いに始まり……好きなところまで。
俺の想い人の話にもなったのだが、それが会長だと気付かれないよう慎重に話した。
そうしてキャンプファイヤーの残り時間が30分に差し迫った頃、会長は「よいしょ」と立ち上がった。
「翔くん、アタシ告白しに行ってくる」
「……は!?」
何を言われたのか分からず、俺は会長を見上げた。
告白……? 今から……?
「いや、でも……」
「言いたいことは分かるよ。でも、もうアタシ3年生だし、後悔したくないんだ」
会長は懐から以前購入したハンカチを取り出した。
「それに、誕生日プレゼントもまだ渡せてないしね。ついでにこれも渡してくるよ」
「……ッ」
……強い人だな、とただただそう思った。
結果を知って
俺はこの人のこういう部分に惚れたのだということを思い出した。
俺もついていこうとすると、手を突き出した会長に制止された。
「アタシ、一人で行ってくる。だから翔くんはここで待ってて」
「……」
会長の目は決意の色で染まっていた。
それで、何を言っても無駄なのだと察した。
俺は素直に頷く他なかった。
……どのくらい時間が経過しただろうか。
会長が生徒会室を出ていってもう30分は超えるはずだが、未だ戻ってくる気配はない。
ずっと地べたに座っていたからだろうか。
予想外の寒さに足を
現れたのは会長だった。
結果はどうだったのかと問おうとし、帰ってきた会長の表情で全てを察してしまう。
目は赤く腫れ、頬はひどく濡れていた。今も涙は流れている。
その手にはハンカチを握っていた。
会長は悲しげな笑顔を俺に向けた。
「……振られちゃった」
「……ッ」
以前の俺は、こんなものを望んでいたのだろうか。
会長にこんな顔をしてほしかったのだろうか。
……そんなわけがなかった。
「翔くん、ちょっと後ろ向いててもらえるかな」
「……」
俺は無言で会長に背を向けた。
するとそこに、何かがのしかかった。
驚いて顔だけで振り返ると、会長は俺の背中に顔を
会長の肩は小刻みに震えている。
「……もう少し、このままで」
「……はい」
志保にしてもらったから、これがどれだけ効力を為す行為なのかが俺には分かる。
会長の熱を感じ、俺の鼓動は早くなった。
胸の高鳴りを覚える権利など、今の俺にはないというのに……。
会長にこの音は聞こえまいかとハラハラしていると、そっちばかりに気を取られたのか……。
___ぷぅ。
「……………」
「……………」
腹が爆発して出してしまった音。
俺たちは二人して黙り込んだ。
「……翔くん」
「……すいません」
穴があったら入りたい、とはこのことだろうと思った。
翌日。
生徒会室に行くと、既に会長が席に座っていた。
会長と簡単な挨拶を交わし、俺も自身の席につく。
パソコンを起動させた俺は、昨日のことに触れるべきか否かと悩んでいた。
会長のことを思うのなら、触れるべきではないのだろう。
でもこのままというのもなんだかスッキリしない。
「翔くん翔くん! 今日はパンフレット持ってきたんだけど、これどれが良いと思う!?」
「……え?」
反射で聞き返すと、会長は俺に遊園地のパンフレットを突きつけた。
「もー鈍いなぁ。右京くんをまたデートに誘おうと思ってるんだけど、アタシだけじゃ決められないから、翔くんに手伝ってもらおうと思ってね!」
「……えぇと」
俺にパンフレットを手渡し、そのままダンボールに入った紙束を漁る会長。
信じられない、といった様子で俺は訊いた。
「あの、会長は気にしてないんですか? 昨日のこと……」
「……まあ、気にしてないわけじゃないんだけどね」
会長は手にしたパンフレットを
「実は昨日、右京くんに言われたんだよね。好きな人がいるから付き合えないって」
「それじゃあなんで……」
「でも、だからってアタシが諦めなきゃいけない理由にはならないでしょ?」
「……ッ」
この言葉に、俺がどれほど救われたか分からない。
胸のうちが晴れた気がした。
悩んでいた心から邪気が消失していくような気分になった。
相手に好きな人がいたからといって、それが諦める理由にはならない。
会長自身に、好きでいてもいいのだと言ってもらえた気がした。
楽しそうにでデートスポットを
「ねえねえ翔くん! こことか良いんじゃないかな!? ……って、なんで笑ってるの?」
「……なんでもないです」
やはり、会長はこうでなくては___そう思った。
END
____________________
最後まで読んでくださりありがとうございました!
評価や★、コメントなどで応援していただけると嬉しいです(_ _)
伏見ダイヤモンド
憧れの生徒会長を恋い慕う生徒会書記、屋上に呼び出されたので告白されるのかと思いきや、生徒会副会長との恋路を手伝ってほしいと懇願されてしまった。 伏見ダイヤモンド @hushimidaiyamondo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます