今年30歳を迎える社畜独身の俺。昔から何故か決まって元日に老後の自分の夢を見るのだが、いつも隣にいる妻らしき人は一体誰なのだろう。ヨボヨボすぎて若い頃の姿が想像できない。しかも俺、その人と今年に結婚?
人生サレンダー
第1話 元日にみる初夢は正夢になりますか?
また、今年の元日も俺はあの夢を見た。
おそらく、物心がついてからは毎年決まって元日にずっと見ている夢。
そう。何十年も先の未来の俺が、穏やかに、知らないお婆さんとほのぼのとお茶をしながら会話をしている夢。自宅だろうか。狭すぎず広すぎずといった、心底落ち着く雰囲気の畳の部屋の一室で、みかんが山盛りに置かれた机を挟んで仲睦まじく談笑をしている光景の夢だ。
きっと、夢の中のその会話などからも、あのお婆さんはおそらく俺の妻で、老後の生活の一場面を、今年も夢として俺は見ていたのだろう。
いつも出てくるのは、決まって毎回同じの人物で、もうヨボヨボのお婆さんだ。
正直、綺麗とか美人とか、昔の姿だとか、そういうものを外見から感じることのできる年齢ではないが、いつもその夢に出てくる彼女はいつも楽しそうに俺に微笑んでくれている優しそうな人。
一見すると、その光景は誰が見ても幸せな老夫婦がおくる理想的な日常の姿に違いはないのだろう。
だから、一般的に元旦に見る初夢はそれが正夢になり現実になると言うが、もし本当に毎年の様に見るその夢が老後に現実になるというのであれば、正直やぶさかではないと思っていた。
やぶさかではないし、きっとそれは正夢になると俺は心の中では都合よく思い込んでしまっていた。
そう。少なくとも、大学時代からずっと付き合っていた歳下の彼女に浮気をされて、つい先日のクリスマスに別れることになるまでは...。
今年は俺、成宮 誠も、もう30歳になる歳。一応、プロポーズもすませており、あとは彼女と籍を入れて無事夫婦になりあの夢のような未来が訪れる予定だった。不思議にも毎年、元日にこんな夢を見るんだ。あのお婆さんは間違いなく彼女で、最早これは運命でしかないと思っていた。
それが、『誠くんと結婚すれば幸せにはなれると思う、でも、多分それだけだと思ってしまったの』...か。
正直、だとしてもそれが浮気の言い訳になるのかと考えると自分の中で消化ができていないところもあるにはあるが、まあ俺とずっと一緒になる未来をあらためて真剣に想像してみたら、退屈な未来しか見えなかった。きっと、そういうことなのだろう。
実際に俺は昔から
将来的に結婚するなら成宮君みたいな優しそうなタイプがベストかも。とか
成宮君は本当に優しいし、絶対にいいパパになりそうだよね。とか
成宮君みたいな真面目そうな良い人は私には合わないよ。
などといった、退屈でつまらないと見なされ、異性として女性から見られていない男が言われるセリフを数多の女性から吐かれてきた。
そう。全ては今となってはまさに皮肉でしかないものだ。
そして、とにもかくにもだ。何故か不思議にも毎年見るあの夢が、正夢にはもうならないということも決定なのだろう。
夢の中のカレンダーはいつも決まって2084年で、それは今年も例外ではなかった。そして、今までの記憶を辿ってピースを一つ一つ重ね合わせていくと、俺のその時の年齢はちょうど90歳。そして、いつもその夢に登場するお婆さんと結婚したのがちょうどその60年前。
つまり、俺が結婚するのは今年、2024年のはずだった。だからこそ、去年のうちにプロポーズをすませて、今年、彼女と籍を入れて結婚をするつもりだったのだが。
今、思えば本当にバカだよな、俺は。
夢を運命と勘違いしたあげく、自分の都合のいいように現実と混合させて浮かれていたなんて。
それはそうだ。先日の夢の中でも、そのお婆さんは『本当にあなたと結婚できてよかった。あの中から私を選んでくれたこと心から感謝してるよ』とかいう言葉を言っていたが、あまりにも俺にとって都合のいい言葉が並べられている。
しかも、今年に至っては、自分たちの子供や孫の様な人たちが家に集まってきて、いとも楽しそうで幸せそうな、まさにお手本のような家族の空間ができあがっていた。
そう。はっきりと言ってしまうと世の中の男が女性から言われたいであろう言葉や理想の状況ががそのまま夢にでてきているだけなのだ。
まず、今まで付き合っていた彼女と別れた今、俺にそんな結婚を考えるような女性が周りにいるかと言われれば皆無だし、あの中から私を選んでくれた?その言い回しだと俺が複数人からモテていて、その中から結婚相手を選んだことになるが、そんな状況は未来永劫訪れる予感も気配もないし、ありえない。ゆえに子供ができることも孫が生まれることも絶対にない。
要は妄想がたまたま夢になっていただけで、俺は昔からそんな妄想を無意識にしていた頭お花畑の痛い奴ということなのだろう。実際、そんな男だから浮気をされたのかもな。
とりあえず、今までの夢が正夢にはならないことは確定。これで俺はもう生涯、独身でいることも確定した。むしろ、今まで彼女がいたことが奇跡だったのかもしれない。
現にあらためて周りの女性で未来の俺の嫁、さらに今年結婚できそうな相手?を頭に思い浮かべてみるが、そんな相手、いるわけがない。
まず、近くに女性がいる場面なんて、今の俺には職場にしかない。さらにその職場に今年結婚できる相手というか、そもそも付き合えるような女性は誰一人としていない。
例えば...同じ部署の後輩の女の子、今田さん...はまず絶対にない。
あんなに可愛くて周りの男から人気があって、明るく愛嬌もあるまさにアイドルのような美人が俺の結婚相手になることは確実にない。
今田さんは俺にもいつも優しくしてくれるが、彼女は例外なく誰にでも愛嬌を振りまく完璧な女性。いい意味でも悪い意味でも、八方美人であざとい女の子だ。それを勘違いして好意をもってしまうような勘違い男では俺は一応ない。
そして、他には...派遣社員の戸田さん...も絶対にない。
彼女もかなりの美女で、今田さんとはタイプが違うが、常に凛としていてスタイルもこれでもかと整っておりスレンダー、その透明感や清潔感は他に類をみないほどの美女だ。実はモデルや女優を裏でしていると言われたとしても信じざるを得ないレベルの女性。
彼女は自分からあまり人とコミュニケーションを取りに行くタイプではなく、一見するとクールで取っつきにくい雰囲気をしているが、実際に人から話をふられると、愛想よく笑顔で会話のできる普通の良い人。そういうギャップもあって彼女も色んな男からモテにモテており、よくアプローチを受けている。歳は定かではないが、おそらく俺よりも下なのは確実っぽい。まあ、彼女は今持っている仕事上、よく会話はするが、恥ずかしながらプライベートな会話は正直したことがない。とにかく彼女も雲の上の存在だ。絶対にない。
まあ、いま俺と関わりのある女性といえばそのぐらい...いや、強いて言えばもう一人か。同い年で同期の新木の存在を忘れていた。
まあ、彼女も他の二人に引けを取らないレベルのかなりの美女。ただ、夢の中に出てくる、ほのぼのとした優しそうなお婆さんとはあまりにも違いすぎるから完全に頭から除外していた。あんなに気の強い女がいくら数十年経ってお婆さんになったとは言え、あんなに丸くなるわけががないから。
まあ、その気の強さも決して他人を意味もなく傷つけるようなタイプではないし、人の悪口を言ったりするようなタイプでもなく、良い様に言えばサバサバとした性格の女というだけで決して性格は悪くはないことは知っているが、ちょっと...。
もし、もしもだ。あれで、彼氏や夫になった男性にはめちゃくちゃ甘えたり優しくなったりするタイプなのであれば正直ギャップでやられそうになる可能性も大いになるが、あの美貌をもってしても29歳で結婚していないところを見ると、おそらくその線もほぼないに等しいのだろう。
偏見でしかないのかもしれないが、彼女は間違いなく旦那を尻に敷くタイプにしか見えない。そして、万が一、俺が相手ならばそれはもう潰されるレベルで、尻に敷かれることは間違いない。
とにもかくにも、色んな意味で新木も絶対にあの夢に出てくるお婆さんではないだろう。
となれば、やはり俺の周りにいる関わりのある女性で、今年結婚できそうな女性なんて皆無だ。
別に今さらもう、マッチングアプリや街コンで彼女を見つけようとも思わないし、今回のことで特に結婚に願望もなくなった。
もう、俺は一生独りでいい。今の時代であればそんなに珍しいことでもないだろう。
にしてもだ。誰が広めたか、噂というものは総じて広がるのが早いようで、今日の朝なんて職場の清掃のオバちゃんにまで、長年付き合っていた彼女と別れたことを励まされる始末。
まあ、別にそのことがこの職場の人たちに何か影響するのかと言われれば、全くもって影響しないから、どうでもいいことでしかないのだがな。
それにしてもだ。
そうか。あらためて実感するが、もう俺も今年で30歳なのか...。
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なろうの方で先行して11話まで更新しています。
今年30歳を迎える社畜独身の俺。昔から何故か決まって元日に老後の自分の夢を見るのだが、いつも隣にいる妻らしき人は一体誰なのだろう。ヨボヨボすぎて若い頃の姿が想像できない。しかも俺、その人と今年に結婚? 人生サレンダー @jetton
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