AIある小説

押見五六三

カクヨムコン9応募受付最終日……

「駄目だ! 間に合わない!」


俺は焦っていた。

もう時間が無いからだ。

現在2024年2月1日木曜日、午前8時。

あと約4時間で第9回カクヨムweb小説コンテストの応募受付が締め切られる。

なのに俺の作品はまだ未完成のままだ。

このままでは読者選考の前に落とされてしまう。

だが焦れば焦るほどアイデアが浮かばない。

どうしたら……どうしたら良いんだ。


「くそっ! 諦めるしかないのか?」


俺はパソコンを見詰めた。

そして禁断の方法を思いつく。

そうだ。

AIだ。

AIに小説を書いてもらい、それを俺の作品だと偽って投稿しよう。

卑怯な手だが明確な不正ではない。

それに誰にも分からない筈だ。

そうだ。もう、それしか道は無い。


俺は意を決してパソコンに手を伸ばした。

しかし――


「作者様、何をなさる気ですか?」


パソコンの画面には水色のベレー帽を被った美少女キャラが突然映し出された。

そのキャラクターは、メイド服か学生服か分からない服を着用し、タブレットを手にしている。

見た事ある。

何処かで見た事あるぞ、このキャラクター。

そうだ。このキャラクターは……。


「君は……もしかしてリンドバーグか?」


「はい。カクヨムユーザー様の為のお手伝いAI、リンドバーグです」


やっぱり。お手伝いAIのバーグさんだ。

新規のカクヨムユーザーさんに聞いても「誰?」と言われるほど、カタリィ君と共にすっかり影が薄い存在に成ってしまったが、本物のカクヨム公式キャラクターだ。

AIキャラクターの彼女が、なぜ俺の元に……。


「作者様。あなたは今、AIを使ってコンテスト用の作品を創ろうとしましたね?」


バ、バレてた。

流石は公式お手伝いAI。


「頼む。見逃してくれ。時間が無いんだ。有名な作家さんもAIが答えた言葉をそのまま使っていたと言っていた。これからの時代、小説もAIを活用しても良いと思うんだ。AI小説が沢山投稿された方が、君も同じAIとして喜ばしいだろ?」


「確かにリンドバーグはAIです。けど、作者様の小説を読むのもAIなのですか?」


「えっ?」


「リンドバーグのお仕事はあくまで作者様の応援です。作者様の執筆意欲向上のお手伝いです。作者様の心が籠もった愛ある作品を読むのはAIではなく、心ある人間の読者様なのです」


「心が籠もった……愛ある作品……」


「そうです。心が籠もってない、愛のない作品を読者様に提供して、作者様は心が痛みませんか? 努力して愛ある作品を書いてる他の作者様達に対して失礼だと思いませんか? そして何より、作者様はAIが書いた偽りの自分の作品を愛せますか? 作者様が心を込めて書いた作品を誰よりも愛せるのは、作者様自身じゃないのでしょうか?」


「自分の作品を誰よりも愛せるのは……自分自身……」


俺は思い返してみた。

数年前から初めた創作活動の日々を……。


試行錯誤の連続だった。

資料を買って、時には取材などをして楽しみながら過ごした日々。

アイデアが浮かばず苦しみ、何度もコンテストに落ちて泣いた日々。

共感してくれたコメントや最高の評価を貰って喜んだ日々。

そうだ……一生懸命、心を込めて書いていたからこそ、全てに喜怒哀楽が出てたんだ。

読者を喜ばそうとして、メジャーデビューを夢見て、愛ある小説を書いてたんだ。

自分で考えて書いた物じゃない、偽りの自分の作品なんて愛せる訳がない。例えそれが、コンテストで賞を取るほどの秀逸な作品でも……。


「作者様。残念ながら私達AIはどんなに頑張っても心を込めた作品は書けないんです。私達AIがどんなに進化しても創造力で人間を超える事はできないんです。愛ある小説を書けるのは、人間にしかできません」


そんな事はないよ、リンドバーグ。

少なくとも君は、俺なんかよりずっと愛があるじゃないか。

俺や読者に対する思いやりの心をちゃんと持ってる。

俺が間違っていた。

君の助言で気づけたよ、有難う。

AIに頼らず、自分で愛ある小説を創ってみせる。


俺はそれから自力で頑張った。

その間リンドバーグは画面の端で笑顔のエールを送ってくれた。

お陰でアイデアがガンガン湧き、文字を打つ手がドンドン進む。

そして4時間後――


「できたー! 遂に完成したぞー!」


「おめでとうございます、作者様」


俺は急いで投稿しようとしだが、さっきまで笑っていた画面のリンドバーグが、突然真顔に成ってこう言った。


「2024年2月1日木曜日.、11時59分を回りました。只今を持ちまして第9回カクヨムweb小説コンテストの応募を締め切らせていただきます」


「えっ? ちょ、ちょっと待って! 俺、まだ公開ボタン押せてないんだ。あと数秒だけ待ってよ!」


「駄目です。時間は厳守です。コンマ1秒も遅刻は認めません」


バーグはん……あんた、そこには愛が無いんや……。


〈てなわけで……皆様、カクヨムコン9投稿お疲れ様でしたあー!!〉



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