第6話 夜の海上で
「はぁ、人が多い所はも元々、得意じゃないんだが、流石に身分が上の人とすれ違う時は緊張するな」
平民であるカイルにとって、身分が明らかに上である人達とすれ違う時は、手に冷や汗をかくぐらい緊張するのだ。
麗かな昼過ぎの風に当たりながら、甲板へと訪れたカイルは甲板にいる人達を見回す。
そんな中、カイルの視界に1人の人物が飛び込んできた。
「母さん……?」
何処か懐かしく感じられる人影が人混みに紛れて、遠く離れていこうとする。
カイルは、はっと我に返りその人影を追い掛けて走り出すが……
「待ってくれ……!!」
追い掛けたが、その人影を見失ってしまったカイルそっと呟く。
「今のは母さんだったのか……? まさか、母さんもこの船に?」
しかし、離婚をして離れた国で暮らしている自分の母親がこの船アルディニック号に乗っているはずがないと思い至ったカイルはその場を後にする。
カイルが見掛けた母親と似ている相手と後に出会うことになるとは、この時はまだ知る由もなかった。
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「ティーナ様。やっと戻って来ました!! 中々、戻って来ないので、心配しましたよ」
ティーナが船室の扉を開けると同時にティーナのことを待っていた己の侍女であるリアーナ が駆け寄って来る。
「リアーナ、心配かけてごめんなさい」
そんなティーナの謝罪の言葉にリアーナは頬を含まらせ、両手を腰に当てて、ティーナに鋭い視線をぶつける。
「もう、今度から、1人で船内を歩き回る時は、何時までに戻って来るかを申して下さいね」
「ええ、わかったわ」
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「そろそろ、夕食の時間ね。行きましょうか」
部屋にある時計に目をやり、エレノアは読み途中の小説に栞を挟み、腰を下ろしていた椅子から立ち上がる。
「時間が経つのは早いなぁ…天気も良かったし」
『今日は綺麗な星が見えそうだな』
「えっ……?」
自分と同じ事を言い声が重なった事に驚いたカイルはそっと声の主に目を向ける。
「星が綺麗に見えそうですよね。今日は」
カイルの左隣に立っていた同い年くらいに見える茶髪の青年は茜色に染まりつつある空を見上げながら、そう言葉を続ける。
もしかしたら、この青年も自分と同じように何かの目的の為に、この船に乗り込んだ1人でもあるのかもしれない。そう思ったカイルは親近感がわき、名前も知らない赤の他人である茶髪の青年と会話を続ける事にする。
「そうですね。俺も豪華客席と呼ばれているこの船に乗ることになるなんて、思ってもいませんでしたよ」
「ですよね。あ、さっきから気になっていたんですが、何歳なんですか?」
「19ですよ?」
カイルがそう答えると茶髪の青年は少し驚いた顔を向ける。
「やっぱり、歳が近そうだなと思ってましたけだ、同い年だったとは」
「お?そうなんですか。何か親近感、湧きますね」
「はは、ですね」
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