第5話 航海士

 その頃、甲板近くを二等航海士の1人であるポールが顎に手を当てながら、何やらぶつぶつと呟きながら歩いていた。


「そう言えば、そろそろ給料入るんだっけか?実家に半分仕送りしないとな。ついでに妹に手紙でも書くか」


 明るいオレンジ寄りの髪色をした見慣れた人物を遠目に見つけたポールと同期である一等航海士のエリックは金髪色の髪を揺らしポールの元まで走り寄る。


「おーい、ポール!!」


 聞き慣れた声がポールの耳に届き、ポールは足を止め振り返り、自分の名を呼んだエリックの姿を捉える。


「エリック?」

「久しぶりだな。ポール!!」


 オレンジ色の瞳をポールに向けて、そう声を掛けてきたエリックの顔を見て、ポールは自然と声が弾む。


「そうだな、同じ船にいるのに、全く顔を合わせなかったのは、ある意味凄いよな」

「はは、だな」


 同期であるエリックとは同じ役職ではあるが、エリックの方が階級が上である為、任されている仕事が異なっており、あまり船内で会うことはない。


「あ、ロンは元気にしているか?」


 同じくポールとエリックの同期であるロンはポールと同じ二等航海士である。エリックと同じ仕事を任されることが多いロンの名前を出したポールに対してエリックは何かを思い出したかのように笑う。


「ああ、元気にしているよ。今日は朝から口癖のダルい、眠いが一度も出ていなかったな」

「それは珍しいな」


 いつもだったら言っているはずの言葉を今日に限ってロンが言わないなんて、何処か調子でも悪いのかとポールは思ってしまう。

 しかし、ロンには口癖を今日に限って言わない理由があるらしくエリックは言葉を続ける。


「今日はおめでたい日だから、そんなことは言えないって言ってたぞ。あ、あと、もしいつものように口癖の眠い、ダルいと言っている所を見られたら、船長に怒られそうだとも言っていたな」

「はは、なるほどね」

「ああ、」

「あ、エリックは仕事中だったんじゃないのか?」

 

 手に持っている数枚の封筒を見て、何処かに届けに行く途中だったことを察したポールは申し訳なさそうな顔をする。


「ああ、そんなに気にしなくて大丈夫だぞ。まあ、まあ、届かに行く相手は船長なんだけどな!」


 エリックは手に持っていた数枚の封筒をひらひらと揺らす。船長であるオズワルドは見た目は怖いイメージがあるが、かなり寛大な人柄をしている為、余程のことではない限り怒ることはない。


「なら良いんだが…… あっ! エリック。もし休みが合えばの話しだが、ロンとエリック、俺の3人でその内、飲みに行こうぜ」

「おう、そうだな! じゃあ、俺は行くな」

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