第33話 軍事衝突
その日の、空が暗くなる頃。アイザック、夏美、ソンジたちは宮殿の城門にいた。
隣国であった軍事衝突について調査すべく、アイザックは隣国へ偵察に行くことになったらしい。書庫まで急ぎの用だと言ってやって来たのは、これが原因だったようだ。
「アイザック……そんな危ないところに行って、大丈夫なの……?」
「これが俺の仕事だ」
「わかってるけど……」
軍事衝突という物々しい言葉に、夏美はつい弱気になる。もしアイザックの身に何かあったら、と思うと胸がざわざわする。
しかも同行する軍隊や、周囲の話を聞いている限り、今回の軍事衝突はかなり規模が大きいゲリラ行為だったようで、周辺国の関係にもヒビが入りそうだという。いくら他国の第二王子であっても、軍事衝突に巻き込まれない保証はない。
身動きをよくするために、少数精鋭で向かうことから、いつものように馬車での移動ではなく、今回はアイザック自身も馬を駆って隣国へ出ていくようだった。
「ソンジ、こいつを頼むぞ」
「はい、お任せください」
「ヨハンには近づけるな」
「……かしこまりました。しかし、ヨハン様は──」
「お前が何か言いたいことはわかってる。お前もだ」
ソンジと夏美に、アイザックが視線を配る。実は今日の書庫でのあの一瞬の状況を、アイザックはしっかりと見抜いていたのだろう。
「しかし、その話は俺が帰ってきたあとだ。いいな?」
「はい」
「うん……」
(アイザックは強いみたいだし、変な心配はしてないけど……それでも、今この人が死んだら、私は嫌だな)
それは、セックスができなくなるからではない気がする。少なくとも数日一緒に寝ただけの相手への感情を、上回る何かがあるような気がした。
「……気をつけてね」
「ああ」
「ご無事を祈っております」
「死んだら嫌だよ」
「……そんな顔をするな」
アイザックが不意に、夏美の頬に触れた。それには夏美の鼓動が大きく跳ねる。
「前向きなお前はどこに行った」
「そ、れは……」
(ここで、私が明るく見送らないと……アイザックを心配させちゃう)
夏美は今できる限りの笑顔を浮かべた。
「アイザックなら、大丈夫だよね! 待ってるからね!」
「……ああ、それでいい」
アイザックはそれだけ言うと、馬に乗った。夏美はそのアイザックを見上げる。
「他の男とはするなよ、捕まるからな」
「わ、わかってるよ!」
ふっとアイザックが笑って言う。それにときめいてしまったのは、もう自分でもわかった。隣りにいたソンジが色々と察したようで目を丸くしている。
「とにかく、行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
それだけ聞き届けると、アイザックは手綱を引いて、待機させていた騎士たちを率いて城門を出て行ってしまった。
(本当に、行っちゃった……)
「あの、夏美様?」
「はい……?」
「ごっほん。えぇ……我が国の法律で、教えそこねたものがあったようですな」
「あ……はい。でも、アイザックから教えてもらいました。相手がアイザックであれば、大丈夫だって」
「では……その、やはりそういうことを……?」
「はい……でも、元々はソンジさんの言い方が悪いっていうか、その、そういうことの相手をするように言われたと勘違いして……!」
(いや、初日からやったけどさ!)
そのことも、もう行為への補助線になっていたかもしれない。
「なんと……それはもう、アイザック様と将来のお約束をされたと……!?」
「いや、そこまでは……」
「もしお子様がおできになったらどうするのですか!」
(あ、そうだ。その説明からソンジさんにはしないと……)
「ちょっとその、色々ありまして……お話します、全部」
「ええ、もちろんですよ。ここは冷えますから、中に戻りましょう」
「はい」
二人はアイザックの部屋に戻ることにしたのだった。
異世界で、コンドーム使って純愛してみた 入夏みる @tbrszk
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