第2話

 空を見上げれば、巨大な鳥が優雅に通り過ぎる。

 はるか上空でも、その巨大さがわかる。

 そんな怪鳥も飼い馴らせば、その背に乗って飛ぶことも可能だ……。


 ファンタジーの世界に憧れを持たないわけではない。

 ただ私は、楽しげに異世界を語る友人の若々しさが羨ましかった。



 子どものように目をキラキラさせて異世界を語っていた友人の顔が、すっかりアラフォーらしさを取り戻していた。

 転生の女神とやらに言われたことは本人にとって、それだけ衝撃的だったのだろう。

 夢の中の話と言ってはいるが。

「異世界っていう世界が、ひとつあるわけじゃないんでしょ? そうじゃない世界もあるんじゃないの?」

 と、私は友人に聞いてみた。

 レモンティーのストローを銜えていた彼女は、グラスを置いて頷いた。

「一応、それも女神さまに聞いてみた。他の世界はどうなんですかって。でも、スリッパサイズが大量発生してるか、和式便器サイズを時々見かける程度のどちらかだって。転生先で私が目覚めるベッドの下にも、ゴキが居るって言ってた」

 ゴキだの便器だのと、お洒落な喫茶店にそぐわない単語が並ぶ。

 しかし想像してしまった私は、それどころではなかった。

「……この世界って、素晴らしかったかもね」

 私は宙を指差しながら言った。

「確かに」

 そう言って、友人はレモンティーのストローに口をつける。


 店内に目を向ければ、テーブル席はほとんど埋まっている。

 スマホを眺める女子高生や読書中の女性も、午後のティータイムを楽しんでいた。

 私の向かい側の席で友人もスマホをテーブルに置き、

「いつも通りに読んでてもさ。この世界のはどうなんだろうって想像しちゃって、気が削げちゃうっていうか。一気に、つまんなくなっちゃったんだよね」

 と、言う。

「逆に、ホラー映画でも見てみたら? ひと昔前のジャパニーズホラーとか、ゴキが居ても普通に見えるボロ屋が出てきたりしてさ。気分転換になるかも知れないよ」

「……あー、いいね。昔は好きだったよ」

 そう言うと、友人はすぐにスマホ検索をはじめ、

「あ、これこれ。今でも根強い人気だって。このシリーズ好きだったなぁ」

 と、独り言に入る。

 サクサクとスマホを操作する友人の表情が、徐々に明るくなっていく。

「ほら、これどう?」

 キラキラとした目で、友人はスマホ画面を私に向けた。

 懐かしいホラー映画のタイトルが並んでいる。

 私は頷きながら、

「最近、やっとネットにつながるテレビ買ったのよ。うちで見る?」

 と、聞いた。

「えー、いいなぁ。行く行く。コンビニでお菓子買って行こう」

「そっちのスーパーの方が安いよ」

 などと、年相応の返答をしながら、私たちはお洒落な喫茶店を後にした。



 本当に友人が『なろう系』を卒業するかどうかは、わからない。

 このまま今度は、ジャパニーズホラーマニアになるだろうか。

 夢のことなどすぐに忘れて、また私に異世界をお勧めしてくるような気もする。

 だが、これほど若々しさに変化があるのなら、私もその世界に触れてみたくなるというものだ。


                              了

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友人が、なろう系を卒業するらしい 天西 照実 @amanishi

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