エピローグ. 胡蝶の夢

 懐かしい夢を見ていた。私の中に眠る、あやうく、温かな記憶。あの夏を思い出すと、決まって胸の痕が疼く。

 ラボの扉が開く音がして、誰かが中に入ってきた。

「チーフ、またこんなところで寝てたんですか。もうすぐ時間ですから準備してください」

「あーごめんごめん。気持ちのいい夢を見ててさあ」

「そうですか……。私たちは先に行きますけど、ちゃんと来てくださいよ。あと、大事な学会なんですからせめてヘリックスは外しておいてくださいね」

「はいはい」


 大きく伸びをして、タトゥーの刻まれた腕を白衣に通す。そして慣れた手つきでピアスを外す。

 その銀色の塊を、引き出しの奥にある小箱の中に丁寧に仕舞った。


「行ってくるね、私のアデル」

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素顔は知らない 丹生谷冥 @taoyamei

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