第4話 クロアチア

 4月中旬、東欧のクロアチア・ザグレブに入った。最初、ともえはクロアチアの場所を知らなかった。昔のユーゴスラビアと聞いて、なんとなく位置がわかったような気がした程度である。

 チームの本部があるドイツ・ケルンから車でやってきた。およそ1000kmの旅である。キャンピングカーでやってきたが、寝ているうちにサービスパークに着いた。運転してきてくれたメカには感謝であるが、彼らは1000km程度は苦ではないという。ヨーロッパは広いようで狭い。

 クロアチアはきれいな国である。アドリア海はまさにリゾートの青さを見せている。建物はさすがにヨーロッパだが、緑豊かな景色は日本に似ている。ジャパンラリーに一番似ているかもしれない。もちろん舗装路のターマックラリーである。と言っても、きれいな路面ではない。道路脇の砂や泥が浮いている。コース清掃をしているはずなのだが、インカットをするクルマが多くて、砂や泥をはねあげてしまうのだ。

 SS10まで、ともえは好調をキープしていた。堅実な走りをして、WRC2で4位につけている。全体では12位だ。天気がめまぐるしく変わり、スキーコースでは雪がまっていた。まるでジャパンラリーの再現である。

 SS11でともえは少しミスをした。石橋を渡って、1車線の道をかけ上り、お城の前のヘアピンカーブでハーフスピンをしてしまい、一時エンジンをストップさせてしまった。観客が多く、TVカメラもねらっている有名なカーブなので、ちょっと力が入ってしまったのかもしれない。でも、すぐにエンジンを再始動でき、コース復帰はできた。ロスタイムは10秒ほどで済んだ。順位も変わらず12位のままである。

 SS18でアクシデントが起きた。まず、5位を走っていたフルマーがミスコースをして、道路脇に置いてある赤いポールに激突。この日はサービスはないので、自分で修理をし、15分を要した。これで入賞圏内から脱落である。次に2位を走っていたエブンスが左コーナーでスピンをし、20秒ほどタイムロスをした。その後、トップを走っていたヌーベルがスリップして右の立ち木に激突。走ることはできたが、リアウィング部分を大きく破損し、大きくタイムをロスしていた。これでともえは総合11位に上がった。

 最終SS20、パワーステージ。10位のバジルとは2秒差である。追いつけないタイムではない。

 チーム監督の田中はハードタイヤを選択した。他のチームはソフトタイヤを選択している。ともえはパワーステージのスタートをきった。まずは下りのコースだ。民家の間を抜けていく。バンピーな路面で小さいジャンプをするが、ハードタイヤのおかげで沈み込みは少ない。路面もまだクリアだ。林間の切通しにはいる。道路脇は砂利。タイヤを落とすとスピンをしかねない。後半は田舎道だ。コース脇にボラードと呼ばれる赤いポールが立っている。インカットをしないためだ。日本の国旗が見えるカーブにはたくさんの観客が見える。ジャンクションを越えて、細い道に入るとジャンプスポットが増える。ともえは跳ぶように走る。ハードタイヤにして正解だった。

 フィニッシュ。タイムは8分25秒。14kmほどのステージで平均時速およそ90kmの激走。次のバジルの走りを待つ。バジルはソフトタイヤを選択している。クルマは同じT社のマシンなので、違いはタイヤだけだ。バジルはジャンプスポットでミスをした。着地で底をこすり、コントロールを失いかけている。舗装部分から外れることが多くなった。ともえがまき散らした泥に滑っている。結果、ともえの2.5秒落ち。ともえが順位を総合10位に上げた。ともえはコ・ドライバーとハイタッチをし、監督の田中と固い握手をした。タイヤ選択の勝利である。

 結果はパワーステージではWRC2で2位。総合ではWRC2で3位。T社の中ではトップとなった。1位・2位はC社の独占だった。ちなみにWRCは3位だったオージーが逆転優勝。エブンスが2位、ヌーベルが3位となった。やはりSS18でのミスが大きかった。オージーはスポット参戦での優勝。通算59勝目である。勝山は総合5位。日曜だけならトップでサンデーポイントを7点獲得していた。出だしの不調が残念だった。

 監督の田中がポイント獲得のご褒美に、クロアチア料理をチーム全員にごちそうしてくれるという。シーフードが食べられるかと皆が思ったが、連れていかれたのは家庭料理の店で「チェバプチチ」という料理であった。ひき肉を棒状に練ったもので、まるでつくねみたいな料理だった。監督の田中はご機嫌だったが、シーフードを期待していた皆は渋い顔だった。

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WRC2に女性ドライバー登場 飛鳥 竜二 @taryuji

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