第3話 最強剣士の記憶とコレカラ

 アルバンはノルーの森を探索する。と言っても、ノルーの森はほとんど探索済みでやることは特にない。ダメージを受けてモネにキスされたい願望はあるが今はストレス発散が一番の狙いだった。


 無我夢中で剣を振りまくる。レベル80のアルバンがルノーの森にいるモンスターをいくら倒してもレベルアップなど期待できないがそれでも彼は剣を振り回した。


「くそ!」


 次の街に行くほどのレベルにアルバンは既に達している。モンスターの群れに囲まれても平然と倒せるほどの強さは持っているのにアルバンは進めないでいる。


 恐怖に包まれると人間は動けなくなる。アルバンも本来は必要のない恐怖に包まれてしまっている。


 アルバンに残るのは苦い記憶。過去、単独で魔王城に挑み破れ街が炎に包まれた地獄のような光景が浮かぶ。


「トラウマか……」


 間違った判断が街を壊滅させることを知ったアルバンは剣を振るうのをやめた。それでも目の前でモンスターに襲われていたカレンを救うためには剣を振るうしかなかった。


「アルバン様!」


 呼びかけられ振り向くとそこには真剣な顔をしたカレンが立っていた。


「どうしたカレン?」


「街が、ハロイの街が大変なのです」


「とりあえず落ち着け。一体どうしたんだ?」

 

 カレンは深呼吸してから説明を始める。


「ハロイの街が魔王軍によって破壊され、私以外は魔王軍の人質にされました。私はアルバン様に言伝をということでここまで来られました」


 なんの音も聞こえなかったし、街の方角を見ても炎が立っているとは思えないほど穏やかな風が吹いていたのでアルバンは首をひねる。


「……とりあえず、ハロイの街に戻ろうか」


 カレンの転移魔法でハロイの街に戻ってきたアルバンは舌打ちをする。


「マジでいなくなってやがる」


 街の住民が消えて、賑やかさが失われていた。その中にはモネもいた。正直、他の住民は良いがモネだけは残して欲しかったなとアルバンは思った。


「どうしましょうか、アルバン様」


 アルバンにアドバイスを求めるカレン。そんな彼女にアルバンは微笑む。


「まあ、人が減ったから二人で呑気にこの街で暮らせるな」


「え?」


 戸惑うカレンにアルバンはニヤリと笑い、口を開く。


「それとも、早く魔王城の攻略を急ぐぞとでも言って欲しかったか。のカレン?」


 目を見開くカレンにアルバンは続ける。


「君と出会った一年前、あの時は本当に街が炎に包まれていた。そして、カレン。多分、君が魔王軍幹部になったのもあの時だろう。そして、今回の騒動。あれだけの住民を短時間で移動させられるのは強力な転移魔法を扱えるカレンだけだ。それに、カレンだけが言伝役として俺のところまで来てくれたから確信できたよ」


 人間という生き物は酷く浅ましい。どんなに綺麗で冷静な女性であってもそれは変わらない。奥底には酷く汚いものを隠し持っている。臆病者のアルバンはそれを見逃さない。


「俺を魔王城に連れて行けば、両親に蘇生魔法をかけてくれるとでも言われたのか?」


「……知っていたのですか?」


「いや、ただの想像だ。賢いカレンのことだ。そんなこと罠だと何度も考えただろう。それでも一縷の望みに期待してしまうのが人間だ。俺もそうだ、絶対に来なそうな大穴の馬に大金を賭けたりしてしまう。三連複ならまだしも三連単で」


 そんな望みさえ持てない人間はもう人間ではない。ただのモンスターだ。


「そうです。……馬鹿なことに私は魔王の言葉を信じてしまった。身勝手ですが両親を失いたくなかった。だから、皆さんを犠牲にして貴方を利用しようとしたのです」


 アルバンは溜息を吐く。


「呆れましたよね。あれだけ魔王と戦ってくださいとお願いしていた人間が魔王軍幹部だったなんて」


「俺が呆れているのは、どうしてすぐに頼ってくれなかったのかにだ」


「え?」


「そりゃあ俺は頼りないかもしれないが一応、剣士だ。魔王城だって一度は行ったことがある。魔王には負けたけどな。それでも本気で魔王を討伐したい人間が側にいてくれれば、次は負けねえよ」


 アルバンは燃えるような瞳でカレンに語りかける。


「両親を救いたい、素晴らしいことだ。俺だって顔も知らない住民よりもカレンのことを守りたい。君がやったことはそれと同じだ。騙されたのは少し頭に来たけどな」


 苦笑したアルバンはカレンに右手を差し出す。


「本気で魔王討伐するぞ、カレン。君の両親が助かるかはわからないがコスパは悪くない」


「コスパ、ですか?」


「ああ、魔王を倒して住民救ってカレンからキスされる。一石三鳥だ」


「アルバン様、お言葉ですがおっしゃっている意味がわからないのですが」


「え、魔王を倒せばカレンが俺にキスしてくれるんだろ。それに、わからなくて良いさ。これから嫌でもわかってくるはずだ。冒険というのはそういうもののはずだ」


「そういう、ものなのですか?」


「まあ俺、誰かと魔王城まで行ったことないけどな」


「え」


 唖然とするカレンをアルバンはお腹を抱えて爆笑する。そんな彼を見てカレンは溜息を吐く。


「本当に、アルバン様はふざけておりますね」


「カレンには言われたくないけどな」


「それ、どういう意味ですか?」


「そういう意味だよ」


 こうして、アルバンとカレンは冒険を始めるのであった。
















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最強剣士はキスが欲しい。 楠木祐 @kusunokitasuku

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