第3話「秘密」👿🏰🦈
「勇者? 俺が?」
女はうなずいた。
「えぇ。その忌まわしき姿は、魔王の呪いによるもの……あなたはサメではなく、人間の転生者なのです」
女はラブカと名乗った。魔法使いで、勇者だった頃の俺とパーティを組んでいたらしい。
ラブカは一年前に何があったのか、話してくれた。
「一年前、私達は他に二人の仲間を加え、魔王討伐へ向かいました。ですが、あと一歩のところで、あなたは魔王に『サメになる呪い』をかけられたのです。あなたは人間だったことを忘れ、いずこかへ泳ぎ去ってしまいました。残された我々も城から逃亡し、魔王討伐は失敗に終わりました」
「そんなとんでもないことが……というか、何で俺はサメにさせられたんだ?」
ラブカは「さぁ?」と肩をすくめた。
「魔王は『最近、B級サメ映画なる娯楽にハマったのだ』と言っていましたが」
「ハマんな! つーか、異世界でもやってるのか、B級サメ映画……」
「少なくとも、それが勝負の分かれ目となったのは事実です。他の仲間は魔王の脅威に屈っし、冒険者をやめてしまいました。現在は木こりと花屋をしているそうです」
「ラブカはあきらめなかったのか?」
「……信じておりましたから。いつか、あなたが人の心を取り戻すことを。まさか、姿まで元に戻るとは予想しておりませんでしたけど。魔王を倒さなければ、呪いは解除されないはずですのに、どうして?」
「下半身はサメのままだけどな。イマジナリーシャークっていう、サメの能力らしい」
今度は、俺がイマジナリーシャークについてと、サメになっていた間に何をやっていたのか話した。
人間界でもイマジナリーシャークは珍しい種類らしく、ラブカは興味深そうに聞き入っていた。
「さて……それじゃあ、そろそろ案内してもらおうかな?」
「案内って、どこへです?」
「魔王城に決まっているだろう? 魔王を倒して、俺にかけられた呪いを解くんだよ。そのつもりで俺を迎えに来たんじゃないのか?」
ラブカは驚き、目を見開いた。
「いずれはそうするつもりですが……しばらくはリハビリに専念したほうが良いのでは? こちらはたった二人ですよ? それとも、なにか勝算が?」
「まぁな。上手くいけば、一呑みで終わる。気がかりなのは味と食感だが、そのあたりはお前に任せる」
「かまいませんが……本当に、何をなさるつもりです?」
不安そうなラブカに、俺はニッと笑ってみせた。
🦈
「なーんか、面白いサメ映画ないかのう?」
魔王は玉座からテレビにリモコンを向け、定額サービスの映画をあさる。
テレビもネットも、魔法で別の世界から持ってきたものだ。他にも、コタツやゲーム機など、この世界にはそぐわないものがそこかしこに転がっていた。
「おぉ、これなんか良さそうじゃ! 『スライディングシャークvsミュージカル狂いサメvsネオメガロドン』! タイトルから、すでに"びぃきゅう感"がにじみ出ておるわい!」
ピッと、再生ボタンを押す。
直後、大きく口を開けた超巨大なサメが、魔王の前に現れた。菓子でも食べるように、城の壁をバリバリと食い破る。
「な、なんじゃあぁぁぁ?! これが、ウワサの"すりぃでぃ"っちゅーやつかあぁぁぁ?!?!」
魔王はなすすべなく、城ごとサメに呑み込まれる。周囲を警備していた魔物は、一斉に逃げ出した。
その様子を離れた丘から見ていたラブカは、サメにたずねた。
「どんなお味ですかー?」
サメは「げふっ」と息を吐き、
「屋根はビターチョコで、壁は黒ゴマのウエハースだったわ。んまい」
🦈
「超巨大なサメに変身して、中にいる魔王ごと魔王城を丸呑みする」……それが、俺(ジンベエ)の立てた計画だった。
超巨大なサメなら、前世の映画で見たから想像できる。唯一の気がかりは「城は食べ物じゃない」ことだったが、ラブカに魔法で城をお菓子に変えてもらった。
その後……俺にかけられた呪いは完全に解けた。本来の人間の姿へと戻り、イマジナリーシャークの能力も、サメと会話することもできなくなった。
現在はラブカと二人でパン屋兼お菓子屋を営みつつ、トラフ達サメの保護活動に力を入れている。
人気の商品は「超巨大サメパン」と「ビターチョコ&黒ゴマウエハースの魔王城」。どちらも魔王討伐を象徴する縁起もので、冒険者達はこぞって買っていった。
客が冒険者だと分かると、俺は決まってこう言った。
「旅の道中、もしサメを捕まえることがあっても、逃してやってくれ。そいつは俺の友達かもしれないから」
(終わり)
【短編賞創作フェス全お題】異世界サメ転生〈イマジナリーシャークの逆襲〉 緋色 刹那 @kodiacbear
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