第44話 裏社会と宗教

「やっぱりアリシア姉さんでしたか!」



教会の扉を開けた男はアリシアの姿を確認するなり、大きな声でそう言った。

そして、彼女の隣に立っていたスラッシュを見て何かを理解したかのようにゆっくりと彼ら2人の前まで来ると跪く。



「お初にお目にかかります、ボス」


ん?

ボス?…って…

もしかして、オレのことか?


「えっと…この方は?

さっきアリシアちゃんの名前言ってたってことは、知り合い…だよね?

てか、多分だけど…」


「はい、ご主人様の予想されてる通り、闇ギルドのメンバーの1人です。

彼には町の死体処理を担当してもらっています。

表向きは葬儀屋のような形を取っていますけど」


「死体処理?

葬儀屋?」


「私の場合は今日みたいなことはこれまでには無かったのですが、ご主人様が目覚められるまでは、エレノアさんとシルヴィーがこの町で結構な数のヒューマンを殺してしまっていたので…」


ああ…

なんとなくだけど想像できてしまう…


「確かに死体の処理って面倒くさそうだもんね…

だから、闇ギルドにやらせてるのか…」


「聖騎士団よりも早く死体を回収すれば事件にもなりませんからね。

それに、少ないとはいえ、装飾品なども手に入るので、ちょっとした資金にもなります」


「でも、それって逆に言えばさぁ。

聖騎士団のほうが先に見つけてしまったら事件になるってことだよね?

だったら、もしかしてだけど、これまでは100%の確率でこっちが先に回収できてたわけ?」


「いえ、さすがに全てというわけにはいきません。

そういった場合だと、騎士団長に賄賂を贈り、死体の買取を…

という流れだったはずです」


「なるほど。

でも、聖騎士団…てか、騎士団長だけか…は金の力で取り込めたとしても、一般人の目撃者とかがいたら当然事件になるんじゃないの?

少なくとも噂くらいは広まると思うんだけど…」


「そこは闇ギルドの力量ですね。

具体的にどういった行動を取っているのか?は私たちは知りません。

そこに関しては裁量を与えていますので」


闇ギルド=プロの犯罪組織だもんなぁ…

やり方は色々あるってことか…


「あの、初めまして…なんですが…

見ての通りアリシアちゃんが結構な数のヒューマンを殺してしまってて…

あと、教会の入口にも死体があったと思うんですが…」


「それなら今、仲間の1人が処理しております。

それに、アリシア姉さんが教会の中に居るっていうのを、シルヴィーちゃんさんとユリア様が聞いたもんで…

きっと死体の山ができているかと思い、増援を要請してます…」


「あの…アリシアちゃん…

実はこれまでにもエレオノーラ様とかシルヴィー以上にヒューマンを殺してきてた…とか?」


「あ、いえ!

アリシア姉さんが人を殺したのは今回が初めてです。

ただ、姉御から、もしアリシア姉さんが教会に行くことがあるなら、その時は惨劇が起きると聞いていたもんで…

それに、皆様は…えっとボス…のことを信仰しているという話で、特に姉さんは…と知っていましたから」


ああ…なるほどね…

アリシアちゃんって、オレのことになると人格変わるから分かり易いんだろうなぁ…


「じゃ、死体の処理は任せますので、よろしくお願いします。

で、アリシアちゃん。

あの司祭は?」


「そうですね…

今後やってもらいたいことは伝えましたが…

とりあえずは、教会を封鎖している間は闇ギルドで預かってもらおうと思います。

ザックさんとも面識があるので。

それで大丈夫ですか?」


「もちろんです。

後ほど処理が終わり次第ギルドに連れて行きます」


「私もそれで結構です。

寧ろ闇ギルドの力を堂々と借りることができるのなら、布教もより捗るというもの。

しっかりと利益は出してみせます」


「2人とも良い返事ですね。

まぁ、ご主人様の信者が増えるのなら、利益に関しては私はどうでも良いのですけど。

…というわけで、ご主人様!

ここでの用事も終わりましたので、外に行きましょ!」



アリシアはニコっと笑みを浮かべてスラッシュにそう告げると、彼の腕を組みながら教会から外へと出て行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なぜか異世界の管理者になったオレ、前世で愛でていた子たちと世界を旅してみることにした。 Taro @kaonothing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ