第43話 新興宗教
冒険者ギルドを出た後、スラッシュたち3人がやって来たのは、町の中央広場のすぐ近くにあるルーデシアの教会。
そこには大勢の人々が集まっていた。
が、彼らが近づくと皆、蜘蛛の子を散らしたように退散する。
ん?
どうしたんだ?急に…
教会の前から人の姿が無くなり、正門が見える。
だが、以前に彼が訪れた時とは違い、そこに門番らしき者は誰も居なかった。
いや、正確には、その場所に門番だったであろう人間の首から下が血溜まりを作っていた。
やっぱり穏便には事を運べないだろうなぁ…とは思ってたけど…
「とりあえず中に入ってみるか」
「あ、あたしは外で待ってるわ!
あんたたちだけで行って来なさいよ!」
中の状況を予想したのであろう表情でユリアがスラッシュに告げる。
多分、あの3人にあのメイドたちと一緒に暮らしてたら、これまでにも魔物やヒューマンの死体を結構見てきたんだろうな。
ある程度慣れてきてるっぽい感じはするけど、死体なんて、まぁ、敢えて見たいもんじゃないからなぁ…
「シルヴィー。
ユリアちゃんと一緒に外で待っててくれる?」
「うん!
わかったー!
ユリアちゃん、あそこに座ってお話しよ!」
シルヴィーとユリアが広場のベンチへ向かおうとすると、遠巻きに彼らの様子を窺っていた先程の野次馬達が更に距離を空け様子を窺う。
まぁ、シルヴィーが一緒ならルーデシア教徒に襲われても大丈夫だろう…
ん?
よく考えてみたら、ヒューマンのユリアちゃんより、シルヴィーの方がターゲットになるような気がしないでもないけど…
ま、いっか。
…ていうか、アリシアちゃん…
白昼堂々、町のど真ん中で人を殺しちゃったのか…
そういや、昨日も躊躇無くゴブリン殺してたもんな…
2人がベンチに座って喋りだすのを見届けたスラッシュは教会の中に入る。
「あ、ご主人様。
こちらに向かって来られる気配がしたので、お待ちしておりました」
彼が扉を開けるなり、そう話しかけてきたのは勿論アリシアである。
彼女の足元から生えてきている植物の蔓らしき物は神官達を吊るし上げた状態となっており、1人だけを残してその心臓部には同じく彼女の足元から出てきている樹の根のようなもので貫かれていた。
…ああ…やっぱり…
「ん?
オレのことを待ってたの?」
「はい。
私が殺したのはルーデシアの狂信者達で襲ってきたので仕方なくだったのですが、司祭の処遇をどうするべきか?と思いまして」
「お!おい!貴様!
ヒューマンならその化物エルフを何とかしろ!
そうすれば、私がそれなりの地位を授けてやる!」
吊るされた状態の司祭がスラッシュに向かって叫ぶ。
どうやら彼は全く2人の関係性を理解していないようだ。
「我らの神に向かってそのような口の利き方をするとは…」
そうアリシアが呟くと、彼女の足元から1本の鋭利な枝のようなものが勢いよく飛び出し、男の口の前で止まった。
すると、男は息をするのも忘れたかのように固まってしまう。
オレに無礼な態度をとる相手がいると、アリシアちゃんって、人格変わるよなぁ…
「あれ?
アリシアちゃん、他の人達みたいにこいつのことは殺さないの?」
自分で言っててなんだけど、本当に全く知らないヒューマンを殺すことって蟻を踏むような感覚に近いんだよなぁ…
「はい。
一応でも生かしておけば、今後いずれ何らかの利用価値があるかと。
それに、司祭クラスともなれば、信仰心の欠片もないと思いますので」
なるほどねぇ…
例えば、よくある新興宗教のように、開祖や役職が上になるほど性根が腐ってるっていうか、より俗物が多いって理論か。
ここで既に死んでしまってるのは、その教えを心底信じていたが故に、中途半端に上位の階級にされた者達ってわけか…
「って言っても、どうするつもり?」
「とりあえずはルーデシアに代わる新たな宗教を広めてもらおうかと思っています。
そういったノウハウは持っていると思いますので。
一応は反乱分子に該当しますので、とりあえずは投獄してからご主人様の許可を得てからにしようかと思っていたのですが…
…よろしいでしょうか?」
「うん。
オレは構わないよ。
それに、この件に関してはアリシアちゃんに一存するって決まってた話だしね」
「何をバカなことを!
ルーデシアの司祭である私が…
そのようなことを…
するわけが…」
男が言葉が長くなればなるほど、顔の前に突き付けられていた鋭利なものがその口へ向かってじりじりと近づいていく。
そして、これ以上は、というところで彼は言葉を発することをやめた。
「自分の命よりもルーデシアの教えを大切にするのでしたら、すぐにでも他の方々と同じ場所に連れて行ってあげますけど。
…どうなんですか?」
「…それは…
…一体、私に何をさせるつもりだ…?」
「難しいことではありません。
ここにいらっしゃる我らの神を崇める宗教を世に広めて頂きたいだけです。
ルーデシアから新たな誕生するイース教に鞍替えしてもらうだけの話です」
オレを崇める?
イース教?
え?何の話?
確かに、この町にあるルーデシアの教会は早めに何とかしておかないと、って話になって、アリシアちゃんに任せるみたいな感じにはなってたけど…
「この私に今の信仰を捨てろ…と?」
「あなたに信仰心なんてあったのですか?
贅沢な暮らしさえできれば、何でも良いのかと。
これまでもずっと教会への寄付金を着服していましたよね?」
「何を証拠にそんなことを…」
「闇ギルドのギルド長ザック。
彼のことはよくご存じでしょう?
ただ、彼を筆頭に、闇ギルド自体が既に私たちの軍門に下っていることには全く気付かなかったみたいですね」
「…あのザック殿が…
わかりました…
そこまで知っているなら私もあなたたちに従いましょう。
どうせ寄付金に手を出したことの証拠も掴まれているのでは、仮にルーデシアに戻れたとしても先はないですからね」
「賢明な判断です。
では、まず最初にやってもらいたいことは…
………
……
…」
アリシアはスラッシュに確認を取りながら、男に色々な条件や、させたいことなどを話し終えると、謎の言葉を呟き発動させていた魔法を解除する。
すると、吊るさていた司祭だけではなく数体の死体が床へと落ちる。
と、ほぼ同時に後方にある教会の扉を開く音が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます