全裸ホームレス勇者少女(呪)を拾う。~ちっちゃな自称元勇者に出会って十五秒で脅迫されて映画作りを頼まれたけれど、なんかこの人、死にそうです!!~
10話 脚本家の親父が消える。そして僕は、ようこそアットホームな職場です。 1
ようそこ、アットホームな職場で映画製作です。
10話 脚本家の親父が消える。そして僕は、ようこそアットホームな職場です。 1
ハレヤを連れてマンションへ戻った。
しかし父はおらず、帰ってきた形跡もない。
どこも朝に出発したときのままだった。
「ロジオン、さっそくだが風呂を借りたい」
ハレヤは待ちきれなそうに目をキラキラさせ、廊下なのに服を脱ごうとしている。
「いいですけど、ここで脱ぐことないでしょ。羞恥心ないにもほどがある。あっちの部屋が空いてるので、荷物置いてきちゃうといいですよ」
「ではそうさせてもらう♪」
と、弾んだ声で待ちきれなそうに、ケンケンパしながら靴下ぬぎぬぎしつつ部屋へ向かっていった。
で、すぐ部屋から出てきた。全裸でだ。
目が合うが二人とも極めて無感動。
ハレヤはハレヤで羞恥心ゼロであり、ロジオンも照れて目を逸らすといった事が一切ない。
互いにまったく性的対象として認識してないわけで。
「ああ、そうだ。ふふ、ロジオン、私はこういうシチュエーションを知っている。ほら、若者言葉で、らっきーすけべ、と言ったはずだ」
「普通に堂々と全裸でほっつき歩いてるだけだし、ラッキーは違うんじゃ」
「しかも私の体型ではスケベですらないと? こういう時、女子は確かこう──」
ハレヤは自分の体を手で隠し。
「キャー、ヘンタイー! などとやるんだったか?」
「顔がぜんぜん恥ずかしがってない上に棒読みが酷い。だいたいこのシチュだと僕が一方的に見せられてる側で、変態はハレヤさんですけど」
「ノリが悪い。老婆なりにナウなヤングに打ち解けようとハッスルしたのに」
口を尖らせつつハレヤは風呂場へ入った。
ロジオンは父の行方が判る物がないかと、仕事部屋を見てみた。
すると栄養ドリンクの空き瓶が並んだ机に、メモが残されこう書かれていた。
『もう仕事に疲れました。旅にでます。探さないでください。チャオ♪』
意味がわからなかった。シリアスなのか、お気楽なのかも判断しかねる文面。
父らしいといえば父らしい。
「なんだこれ……どういう?」
だが、その一瞬あとで全てを察した。父の壮絶な労働環境をだ。
床に散らばった栄養ドリンクの大量の空き瓶が物語っている。
ここのところ頻繁な現場への呼び出しや、繰り返される打ち合わせで帰りが遅くなったり、徹夜での脚本の修正作業ばかりだった。
撮影が始まっている映画製作で、脚本家がここまで酷使されるのは、異常だ。
ロジオンは資料係という裏方の裏方、なので現場に顔を出す機会がなく、実情がどうなっていたかは分からない。
父も守秘義務があるので詳しくは現場の話しをしなかったが、とんでもない修羅場になっているのでは?
その時だ。玄関の呼び鈴が鳴らされた。誰か来たらしい。
玄関を開けてみると、中年のダークエルフ男性が立っていた。
褐色の肌。メッシュが入った長い銀髪。ピンク眼鏡。白スーツというオネエ系。
プロデューサーだ。
映画会社は近所にあるから、居ても立ってもいられず来たのだろう。
「あ、プロデューサーさん。お世話になってます」
「いやだわロジちゃん。そんな他人行儀。みんなみたいに『オネエP』ってプリチーに呼んで頂戴。ああん、そんなことより、そうよ。お父さんどこ行ったか判った⁉」
オネエP、なんか物凄く必死だ。
「中にどうぞ。父がどこ行ったか分かりました。どこにいるかは不明ですが」
「ど、どういうことよ?」
リビングまで来てから、例のメモを見せた。
オネエPは──震えだした。
「あの……オネエP。これ、脚本家が逃げたってことなんじゃ……?」
オネエPは青ざめて頷いた。
「覚悟はしていたわよ? でも四人目って……。主要スタッフの脱落がこれで……」
「え⁉ いったい現場どうなってるんです。ただ事じゃないですよね⁉」
「ロジちゃんはちょっち待ってて。監督に連絡してくるから」
オネエPは廊下まで戻り、スマホで監督と通話しはじめた。
ヒソヒソ声だが口論しているらしく、ときおり声が荒げられる。
「無茶は承知よ!」とか、「こうしなきゃ、あちしもあんたも、会社も終わりよ!」
などなど聞こえてくるワードが不穏すぎる。
数分後、オネエPがリビングに戻ってくると、不自然な笑顔で言ってきた。
「ねえ、ロジちゃん。バイトといわず、うちに就職してみない?」
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