現代に生きている高校生、転移したって役立たずだよ

みちのあかり

どんなスキルが役に立つ?

 教室の床に魔法陣が浮かんだ。


 古いラノベかよ! 図書館のラノベ10年以上前のものが多すぎだから、金のない僕は最新の話はカクヨムで読むけど、古いラノベにも親しんでいた。


 ああ、女神さまの部屋もあるのね。はいはい。


「皆さまには、異世界で魔王を倒す役目をお願いします。そのために言語はもちろん異世界の基本情報もインプットさせて頂きました。その他にチートスキルを一つずつ与えます。同じものや被るものは与えられませんので早い者勝ちでお申し付けください」


 ざくっとした女神さまの説明も、これだけアニメ化が多いとみんな分かっているよね。いけているグループの方々から、名乗りが上がった。


 そう。どうせ僕は一番最後なんだよね。


 「勇者」「聖女」「魔法使い」


 あ、魔法使いって言ったよ! せめて白魔法使いとか回復役とか神職って言わないと! 魔法職終了したじゃん! これだからにわかは困るんだよ!


「剣士」「武闘家」「え~と……槍使い?」


 ほら、どんどんマニアックなチートしかなくなっていくじゃん! 魔法使いは酷いよ! 火魔法使いとか水魔法使いとかが無くなっちゃったのは辛いよね。まだ20人以上いるんだから。


「経験値上昇」「回復力上昇」「敏捷性上昇」「ステータス上昇」


 だからぁ。ステータスでまとめると他が使えなくなるの分かってやってるの! もうこれ使えなくなったじゃん!


 どんどんしょぼいチートしか残っていなくなって、もう大喜利状態。こういうの詳しい僕とかに相談して欲しかったよ。


 もう何を頼めばいいか分かんないや。どんどん潰れていく他人の願いを聞きながら、ついに最後の僕の番になった。


「何かあるか少年よ」

「残っていると思いますか?」

「そうね。ここまで分かってないとは思いませんでした」

「だったら僕だけ教室に戻してください」

「そうはいかないの。困ったわね」


 困っているのは僕の方だよ。


「じゃあ、役立たずでいいので生き残れる体にして下さい。具体的に言えば、ほら海外旅行に行ったら水や料理が合わなくてお腹を下すとかあるじゃないですか。あ、虫歯も怖いから、怪我や病気がおきない何でも食べられる丈夫な体、特に骨や内臓を強化してもらえませんか?」


「そうですね、歯も骨の一種ですから体の強化、特に虫歯には絶対にならないようにしましょう。他の方から見ればコストが低いので、出来る限り強靭な体にしましょう。何でも食べられる強靭な体。スキルは無しですがそれでいいですね」


 僕が頷いた瞬間、光が満ち溢れた。



「よく来た、勇者たち。儂はこのカガリヤ王国の国王カガリヤである。お前たちには魔王を倒す任を命ずる」


 偉そうな王様が話を始めた。その後スキルチェックが行われた。

 勇者・聖女・魔法使い。有能なスキルを持つ者は優遇され、それなりのスキル持ちはそれなりの扱い。そしてスキル無しの僕は一晩だけ一緒に泊まってはした金で王宮から出るように言われた。


「では、歓迎の宴を行う。そこの無能も送別会代わりに出ることを許そう。仲間との最後のお別れをおこなうがいい」


 どうせ無視されているんだ。どうでもいいんだけど食事だけはしよう。


 パーティー会場では、贅を尽くした料理が出てきた。うん、日本の食事って最高だよね。この国の最高の食がこの程度だと……。うん。まあ、食べられるレベル?


 あ、勇者たち、調子に乗ってワインとか飲んでいるよ。まあいいや。


 なんかみんな、食事に不満ありそうだね。だって飯マズってテンプレじゃん。これって多分まだいい方だよ。口に出したら駄目だよ。むこうの最高品質なんだから。


「なにこれ、おいしくない!」


 ああ、言っちゃったよ。給仕が睨んでいるよ。


「おいしかったです。疲れたので部屋に戻りますね」


 僕は巻き込まれないようにさっさと感謝を述べ部屋に帰った。その後の事は考えたくないけど、みんな料理の不満を言い合っていたんだろうな。もてなした側の体面丸つぶしにしたらヤバいの分かってないのかな? 関わりたくないよ」



 朝メイドさんが起こしに来た。僕は、昨日のおもてなしのお礼とおいしい料理でしたと伝えると怪訝そうな顔をされたが、「メイド長と料理長に伝えておきます」と言ってもらえたので、なんとなく安心することができた。


 これからどうなるのか。制服に着替えて待っていたら、食事が運ばれてきた。


 柔らかなパンとソーセージ、それに簡単なサラダ。ドレッシングもマヨネーズもないのはテンプレだよね。でもバターはあるしまあよくある異世界転移テンプレとしてはましな方だよね。


「おいしい食事をありがとうございます」

 

 メイドさんにそう伝えるとびっくりされた。


「あの。一緒に来た他の人たちはどうしていますか?」

「わたくしの口からはその事は伝えることはできません」


 何があった⁈


「えっ? じゃあ、これから僕はどうしたらいいの?」

「じきに呼び出されます。それまではこの部屋で待機をお願いします」


 呼び出されるなら先にトイレに行かせてと頼み、一息ついて待つことにした。



「君が一番、我々にとって常識的な対応ができたのだがスキルがないのが残念だ。私のポケットマネーを追加して、安宿に泊まれば一ヵ月は過ごせる程度の銀貨50枚は渡そう。それで勘弁してくれ」


 宰相代理という人が僕に頭を下げた。


「出来れば勇者たちに、口のきき方やマナーを君が指導してくれると助かるんだが。君だけが横柄でない態度だったと記憶しているよ」

「無理です! 僕のいう事なんて絶対聞いてくれません!」

「そうだろうな」


 溜息がきついですよ。何があったんですか?


「料理にケチ付けたのは見ただろ」

「はい。あれはないですよね」


「ああ。その後君以外の全員が食事がまずいと微に入り細に入り言い出してな」


 ああああああ! 顔を潰すやつ!


「そうなんだよ。国王のいる前での失言の数々。料理長は責任を突きつけられるし、今頃追放か死罪か話し合われているのでは」


 うわああああ! 味覚が違うだけなのに!


「でぅだだだだ~ あの! ヤツらは今どうなっているのですか!」

「牢屋の中でゲロまみれさ。吐いたり下痢をしたり」


 ああ、腹を下したんだ。水が合わなかったのね。


「君は腹を壊していないのか?」

「はい。おいしい食事でした。料理を作った方にそう伝えて下さい」

「ああ。一人でもそう言ってくれると助かるよ」


 僕はとっとと城から出た。巻き込まれたら大変だ!

 僕は街に出て食堂で働くことになった。


 皿洗い、給仕、とにかく下働きだが飯は出るし暮らしは何とかなった。

 賄いを作ったらみんなに好評で、料理を任されることになった。簡単な賄いでも、こちらでは誰も味わったことがない最高級の料理として認められたんだ。


 やがて、独立してレストランを開けるほど信用と金を得ることができた。


 他のみんなは、水も食事も合うことがなく、せっかくのスキルを活かすことができなかったみたいだ。死刑にはならなかったが、病気になり苦しんでいるという噂が流れてきた。聖女と魔法使いが回復魔法を使い過ぎて倒れたらしい。


 日本で蛇口をひねれば安全な水が出て、どこもかしこも除菌された清潔な環境はここにはない。水を飲むにも煮沸して滅菌したうっすらと濁った水しかないんだ。

 体が受け付けないのだろう。歯ブラシなんかもある訳はなく、絆創膏もない。風呂に入る習慣もない。


 そんな中では、どんなスキルを持っていても使いこなすことができないだろうな。


 スキルではなく、病気にならない、何でも食べられる強靭な体にしてもらってよかった。異世界に移転しても日本人は、不潔で雑菌まみれの異世界では体がもたないということだけは分かったよ。


 僕は女神さまに「強靭な体にしてくれてありがとうございます」と祈りを捧げて朝食を食べ始めた。

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現代に生きている高校生、転移したって役立たずだよ みちのあかり @kuroneko-kanmidou

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