第4話

「通してください。私は異界人です」


「無理と言ったら無理だ、出直してこい」


 はて、どうしてこんなことになってしまったのだろう……


 今日、突然夜伽の部屋にある本だけでは学習ができないからどっかから借りてこないと!と思いつき、ダイラットの授業が終わった瞬間図書室にすっ飛んできたのだが……


 図書室の見張りをしているまばらに髭が生えたおっさん騎士が身元が判明していないものは通すことができないと言ってドアを開けてくれない。


 だから異界人って言ってんぢゃん。

こっちも引くわけには行かないんだよなぁ…


「彼女の身分は公爵の俺が証明しよう」

どうしたものかとマゴマゴしていると後ろから公爵らしき人の声が聞こえた。


 公爵はグラウンドの時とは違う新しく服を着替え直して、銀髪の髪を煌めかせながら私の後ろに佇んでいた。


「なぜここに公爵が?」

私は公爵が来てくれた嬉しさを隠してそっけなく言ってみせる。


「俺も図書室に用があっただけだ」

公爵はわざわざ、君は何故?と尋ねることはせず見張りの騎士を押し退けて無理矢理図書室に入っていった。


 私は公爵に臨場して同じく図書室に入り、真っ直ぐに魔法本のコーナーに向かう。

途中で他に図書室にいた学生らしき人達にチラッと見られることもあったが特にトラブルもなく魔法本コーナーに到着した。


 ざっと本を見渡すと千冊くらいはあるだろうか。

その中から一つ一つ、内容を確認していく。


『初期魔法入門編』

入門はもうしてるからいっか、


『高度魔法使用方法』

高度魔法って感じじゃないしな…


『魔法ってどうやって使うの!?』

君が教えてくれるんじゃないのぉ!?


 とにかく端から端まで目ぼしい本を見ていく。

13冊目の本に手を伸ばした時、魔法本コーナーの奥からオペラのような歌詞の曲が流れていることに気づいた。


 本当に微かな音だが、なっている場所が静かな図書室だったこともあって気づけた。


 13冊目の本を本棚にしまい、私は曲がなっている方へ歩き始めた、、、曲を辿っているうちに周りは暗く、複雑な通路が見え隠れし始める。


 5分くらい歩き続けただろうか……

そんな広さもない小部屋に到着した。

壁沿いに本棚が設置されており、真ん中に1人用の机と椅子が置いてある、本当の意味の"小部屋"だ。


 しばらくは小部屋にある本を見回していたが、何かおかしいことに気づいた。


 そうだ、この本は全て異界語で書かれている。

異界語……つまりは私達の元いた世界の言葉だ。

先ほどいた図書室に置いてある本はタザール語で書かれていたのに、何故ここだけ異界語なのだろう?


(ちなみに、異世界に来てからタザール人が喋ってる言葉は理解ができたし文字も問題なく読めたので、私達が使っていた言葉と違いがあると気づいた時はずいぶん時間が経っていた)


 私はこの小部屋にわずかな希望を抱いた。

もしかしたら、元の世界に帰る方法が書いてある本やらなんやらが置いてあるかもしれない。


 私はとりあえず持ってきたカバンの中にありったけの本を突っ込んでいき、他にも何か役に立ちそうなものはないか探し回った。


 こういう隠しステージみたいなものはいつ行けなくなってもおかしくない。


 ひとしきり、本を詰め込み終わると、私は小部屋に置いてある椅子に座り、適当な本を一冊取り出して読んでみた。


 本は白紙のページがほとんどで、文字が書いてあるページは少ししかなく、そこにはこう書かれていた。


『運命は変えられる。貴方はヒーローにもヴィランにもなれる

変えるかどうかは、君次第』


 額から冷や汗が滴る。

ドクドクと心臓が痛いくらい脈を打ち意識がすぅっと、とうのく感じがした、

何故……この本に"それ"が書かれている?


 床が私にぶつかってくる………いや、私が床にぶつかった。


**************


 誰かが私に言ったのだ……運命は変えられない。

人は生まれた時から演じる役が決まっている。

他の役を演じることは"監督"が許さないと……


 監督に逆らえば、逆らった者は舞台から下される。

舞台から下されてしまえば、二度とスポットライトに当たることはなく、そのまま朽ち果てていく人生しか用意されていない


 そんな風になりたくないのなら自分に与えられた役職を精一杯演じるしか残された道は無くなってしまう。


 私にとってはどっちもクソくらえだ。


 私達が異世界に召喚されるのも、どこかにいる監督が決めた運命だったのなら……そんな運命ぶっ壊してやる。


 本に書いてあった通り、運命は変えられるのだったら……

変えてやる、私は誰の指図も受けたくない。

自分の運命くらい、自分で決めたい。


**************


 ぱちっと急に目が覚めた。

身体中汗をかいていて、寝てたのに倦怠感がする。

監督……役者………思い出したくもないものを思い出した。


 無理矢理体を起こし、辺りを確認すると夜伽用の部屋の中だった。

(後から知ったが夜伽用の部屋の名前は蜂の間というらしい)


 机には公爵がもの難しそうな顔で本を見つめている。

それは私が小部屋から持ってきた本………

私は寝かせられていたベットから飛び起き、公爵が見つめてる本を取り上げる。


「なんで読んでるんですか」

私は嫌味たっぷりボイスで怒鳴りつけた。


「お前の姿が見えなかったから探していたら図書室の目立たない通路に倒れていたんだ。急いで部屋に連れてきた時、この本が落ちてるのに気づいて拾って見ていただけだ。感謝の言葉くらい聞かせてもらいたいものだな」


 公爵みたいな我の強い奴に向かって迂闊に怒るとキツい反論が待ち受けているだけだと忘れてた。


「……ありがとうございます」

私は徐に公爵が持っている別の本に目を向けた。


『子供の調教法まとめ』


 公爵も私の目線を追って自分の持っている本に目を落とす。

少しの間、気まずい沈黙が流れる。


 ようやく状況を察知できた私は、蜂の間の扉に飛びつく。

扉を思いっきり開き走ってみんなのいる部屋まで逃げた。

(みんなのいる部屋は異界の部屋と言われてるらしいよ☆)


続く

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様にいらないと言われ、何回も元の世界から捨てられてきたけど。 次はクラスごと『異世界召喚』という形で捨てられてしまったので、もう私が神様を捨てようと思います @onigokko0309

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ