第3話

取引が成立したその瞬間、公爵は私に質問攻めされるハメになった。


「この世界には魔法があるの?」


「……あぁ」


「公爵が使ってる魔法は氷魔法?」


「…あぁ」


「魔法を使うには念じたりするの?」


「………」


 こんな感じなやり取りを数回した時、私は気づいた。

こいつ、契約内容には質問に答えると書いてなかったので適当に答えているんだと……めんどくさいやつめ

そうと気づけば私は根気強くあたるまでだ。


「魔法、どうやって使うか教えて」


「念じる」


 埒があかないので試しに一回やってみた。

目を瞑り、炎が手から湧き出るイメージを頭に浮かべて、それを現実世界に押し出す。


 何回も繰り返して炎を出そうとする。

赤い勢いがある炎、オレンジの柔らかな炎、黄色い独特な炎…


 いつのまにかボオッという音が私の中で鳴り響いた。

そのまま音は止むことなく、むしろどんどん大きくなる。

だんだん音は私の頭で制御できなくなっていった。


「……おい、何をやっている。やめろ!」


 公爵が私の肩を掴み揺さぶる。

私が目を開けると手からは火が吹き出し、ベットの一部を燃やしていた。


「何をしているこの阿呆、魔法をとけ!」


 私は炎が手から収まるところをイメージして現実世界に押し出した。


 しかしうまくいかずイメージはしぶとく私の頭の中に蔓延り続ける。

やっとのことで火を消し止めると、私はベットに倒れ込んだ。


 胸が苦しい。酸素をいくら吸っても肺に穴が空いててそこから漏れ出ているみたいに。


「まさか部屋で炎魔法を使う馬鹿がいるとはな」

公爵は長い銀髪の前髪をかき上げて、鼻で私を嘲笑った。

私は横目で彼の顔を睨みつける。


 公爵はそのまますぐに部屋に備えられている机に向かって難しそうな書類を読み漁り始めた。


 私は私でこれ見よがしに魔法をドンドン試していく。

雷、水、草、闇……

どうやら私は魔法の才能があるみたいだ、炎の魔法がうまくいってから、ほとんどの魔法がうまく使えるようになった。


 次に私は、魔法を圧縮させて高いイメージを出す方法を試してみた。 このアイディアは部屋にあった適当な魔法本から見つけた方法だ。

 

 まず、手の中で雷魔法を発動させる。

うまく発動させられたので、イメージを強くしていく。

最初はパチパチという小さな音だったのが、今はバチバチッと勢いのいい音になった。


 公爵の書類をパラパラとめくる音がやんだ。

私はさらに魔法を強くしていき、ついには手に収まりきらないほどになった。


 私は異世界に来てから、危機感知能力が大幅に下がったようだ、これまずいんじゃないかと思った頃にはもう手遅れだった

雷魔法は今すぐにでも私の手を離れて部屋を暴れ尽くそうともがいている。


 私は必死で魔法を抑えているがこの状況がいつまでもつやら

その時、公爵が身につけていた剣が目に入った。

無意識に剣を想像する……


 私の手のひらにあった雷魔法が勢いよく爆ぜて、代わりに紫がかった剣が手のひらに収まっていた。


 雷で形成された剣は、一見触ると危険そうな見た目をしているが、手に持っても感電などは怒らなかったため、試しに一振り振ってみる。

雷剣はバリバリバリッと音を出しながら空気を裂いた。


「これは………魔術剣か?」

公爵がいつのまにか私のすぐ隣までやってきて、不思議そうに剣を見つめている。


「魔術剣がなんなのか、私は知らないんだけど」


 公爵はわざとらしくため息をつきながら説明してくれた。

魔術剣は魔法を高密度に練り上げて暴発させた時にできる剣のことで、威力は普通の鉄剣の30倍にも及ぶという。


 普通の人間なら魔術剣1つ作るのに何年もかかるそうだが…


 魔導剣が作れるようになると、公爵は少なくとも私がした質問をわかりやすく答えてくれるようになった。

魔導剣を作れるくらいの価値があると判断されたのだろう。


 その日は魔法の研究に明け暮れて夜が明け、私はようやく部屋から解放された。


 長い廊下を歩いていき、やっとのことでクラスメイトが待つ部屋に辿り着く。


「ちゃーす」

そう言いながら一思いにドアを開けた。

みんなはもう眠りから醒めていて、身支度も終わっていた。

何やらいそいそと準備をしている彼らをおいて、私は奏に状況説明を求めた。


「なんか、これから剣術の授業をやるって……」

奏は不安そうに呟いた。


 そのまま私達は迎えに来た騎士に連れられ、大きなグラウンドに案内された。


「今日からお前らに剣術を教える、ダイラットだ。よろしく」

グラウンドにはやたらと図体のでかい男が仁王立ちして待っている。


 私達はまず、グラウンドを20周走らされた。

流石にいきなり20周と言われて走り切れるはずもなく、男子の一部層と私以外は全員リタイア。


 リタイアした人も大変で、その場でダイラットに腕立て伏せ50回を命じられ、泣きながら腕立て伏せしていた。


 とりあえず全員、ダイラットの言う"準備運動"が終わると1人1つ剣を渡され、ひたすら撃ち込み作業となり技やコツなどは1ミリたりとも教えてもらえなかった。


 やっとダイラットの気がすんだのか、30分間の休憩が設けられる。


 私は少しクラスメイトと距離をとって休憩した。

夜伽のことで、心配をかけたくなかったのだ。

芝生に腰を下ろし周りを見渡す。


 すると向こうの方に公爵が素振りをしているのが見えた。

汗を滴らせながら、ひたすら的に剣を振り下ろす。

暑いのか、上半身の服ははだけていて腹筋の割れた腹が顔を出している。


 公爵はじっと私が見ているのに気づき、私の方へ大股で近づいてきた。


 その時、クラスのグラウンドを走り切れた一部の男子達全員が私の前に出て公爵との壁を作った。


 私はその光景を唖然と見ていたが、彼らの表情がとても真剣そうなのを見て気づいた。


 私を公爵から守ってくれているのだ、夜伽の後の私を気遣って……… まぁ夜伽してないんだけど


「公爵さん、こいつに何かようすか?」

男子の1人、佐藤啓介が公爵に話しかけた。

クラスで学級委員を務めている真面目BOYだが、

声からは同様と恐怖が見え隠れしていて聞いてて痛々しい。


「お前らは私がそこの女をとって食うようにみえるのか?」

公爵は至極平然にそう言い、男子達のバリケードを抜けようと真正面から突っ込んできた。


 私は立ち上がり、雷の魔導剣を握りしめながら公爵とは反対の方向、女子達が休んでいる方向へ走り寄った。

さっきから数人の大男が彼女達を囲んで暴言を吐き散らしているのは見ていたが、今、奏を殴りやがった。


 私は奏達の元に着くと、女子達と大男の間に入りさっきの男子達と同じような感じで壁を作る。


 1人の大男の股間を蹴り上げ、そのままみぞおちに肘鉄をお見舞いする。


 大男Aが倒れたのを見てさらに股間を蹴り上げ、次に大男Bの元に駆け寄り、そのまま右手の大振りで顔面に一撃をいれた。


 大男Bはこれだけじゃ倒れず、フラフラになりながらも私めがけて拳を振り上げる。


 私は拳を手のひらで受け止め、軌道を変えそのまま流した。

大男Bは勢いよく地面に突っ込んでいった。


 大男Cを探そうとあたりを見回すと剣を持って私を斬ろうと息巻いているところだった。

私は魔導剣を握りしめて、大男Cと向き合う。

今となっては大きな騒ぎになってしまったので見物人が多く私達を囲んでいる。


 ここで勝てば一瞬の喜び、ここで負ければ一生の恥

魔導剣を両手で握りながら高く掲げ、大男Cが剣を振るタイミングと合わせて振り下ろした。


 魔導剣は大男Cの剣を真っ二つにおり、その勢いで大男Cが遠くへふっ飛んでった。


「お前ら喧嘩売りたいなら他所でやりな」

そう言い捨ててみんなの元へ駆け寄る。


「大丈夫?」


「……なんとか」


 確かに無事そうではある。

私はホッと息を吐き、その場にへたり込んだ。


「これは見事なものだな」

公爵がついに男子達の牽制を振り解きこちらに寄ってきた。


「異界人の待遇を変えた方がいい」

私は公爵に向かって呟く。


「そうだな」

公爵は私の耳元に口を近づけて囁いた。

ゾワゾワが背筋を駆け巡る。


 公爵をバッと振り返ると口角を上げてこちらを見ていた。


性格ゴミやろ…



続く


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