第36話 便所いこーや

 おう。ワシじゃ。

 

 金貸しの拓じゃ。

 

 あ? なんで金貸しモードに入ってるのか。 じゃと?

 

 コイツじゃ、コイツ。……鈴木じゃ。

 

 覚えとらんか? 泣きぼくろの女のペット、ピーコちゃんをさらってネットオークションで売ろうとしよった、あの腐れ外道の鈴木じゃ。


 この、くされボケナスがぁ……しばらく姿見せん思ったら、金も返さんとこんな所に入り浸っとったんか。


 そんで、しょーもない宗教団体で、しょーもない壺でも買うて、しょーもない人生を慰めとったんか?

 

 おう……

 

 オドレは神とワシ……どっちが怖いんじゃ? あ?


 このワシをなめとるんか? あ?

 

「こ、この、うさちゃんがアンタを? ふっ……気のせいだろう。マスクってのはどこから見ても目が合ってるように見えるもんさ」

 

 いーや。そんな、だまし絵みたいな事にはなっとりゃせん。

 見とるぞ。ガン見じゃ。

 早乙女さん……アンタがおらなんだら、ワシはこのボケ絞め殺しちょるぞ。

 

「そ、そうですか。気のせいですか……」


 気のせいじゃないわ。殺す言うちょろうが。金返せんのなら死んで詫びさせちゃるわ。


「お、おい拓。どういうつもりだ? うさちゃんマスクの隙間から怒気やら殺気やらがタダ漏れだ。 なぜスイッチが入ってる? 潜入中だぞ……怪しまれたらどうする」ヒソヒソ


 どうもこうもないですわ早乙女さん……

 こっちも仕事ですけぇ。ワシはこの鈴木のアホから、きっちり貸した分を搾り取っちゃるだけですけえ。


「どうぞ。ここが入信の儀を執り行う。愛注入の間です。お二人はここでお待ち下さい。すぐにマスターヨリミチ様がいらっしゃいます」


 なにが愛注入じゃ鈴木ぃ……ワシが根性と倫理観ちゅうもんを注入しちゃるけ、覚悟しちょれや。


「おう鈴木さん」


「は、はい?」


「ションベンじゃ。トイレェ案内してくれぇや」


「と、トイレですか? ここを出て左に……」


「案内してくれぇや!!」


「ひっ……分かりました。で、では皆さん早乙女さんをお願いします」


 そうじゃ、そうじゃ。他の取り巻きのモンもプルプル震えながら頷きよらぁが。お前なんかここにおらんでも大丈夫じゃ。そんなことより……


 ワシと便所でたっぷりとお話し・・・しようや。


「ちゅーわけで早乙女さん……ワシここから別行動で行きますけぇ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る