第35話 マスターヨリミチ

 マスターに連れられて向かった先の建物は先程のラブホテルとは比べものにならんほどデカかった。


 金やら銀のセンスのない装飾はいただけないが。立派な建物だ。


 いや、しかし……


 ……紛らわしい!

 近所に似た名前の建物を作るんじゃあない!


 だが地元じゃなくてよかった……


 ガタイのいい成人男性にうさちゃんマスク被せる性癖があると勘違いされたら……

 オレのファンである仔猫ちゃん達にあらぬ誤解を招くところだぜ。


「早乙女君……その……さっき……「先っちょだけ」って……彼に言ってなかった?」


「な、なに言ってんだマスター! 違うぞ! 違う意味だ! オレは確かにハードボイルドだが、性癖はいたってノーマルだぞ!」


「あ……そう。へえ……ノーマル・・・・なの……」


 くっ……なんだその物言いは! 疑っているのか!?


 拓のヤツもさっきから、うさちゃんマスク越しにチラチラこっち見てるし……


 くっ……屈辱だ。



________




「では改めて……ようこそ全宇宙平和 愛融合教団へ。私は信奉リーダー本部司祭長『マスターヨリミチ』」


 少し広めの会議室のような部屋に通されるとマスターが自己紹介を始めた。

 

 ふむ……ここで皆には説明が必要だな。

 マスターの名前は『頼通』だ。BARの名前『ヨリミチ』は名前の『頼通』と『寄り道』をかけてるってことだな。


 ふふ……ダサいだろ?


 しかし……信奉リーダー本部司祭長だと?

 ここの階級の仕組みは、よく分からんが……司祭長なんて肩書き……かなりのモノとみた。


 ってことは、周りにいる若い男女……10人程か? コイツらはマスターの取り巻きってことか……


 さすがマスターだ……女が絡むと途端にハードボイルド。

 たった2週間でめちゃくちゃ出世してやがる。

 アンタBARやめてこっちに来た方がいいんじゃないか?


「じゃあ鈴木君。彼らを愛注入の間へ……私は準備が出来次第、後から行く」


「はい。マスターヨリミチ」


マスターは出来る男風にカツカツと足音をたてながら部屋を出て行く。

マスターのくせに生意気だな。


「それでは、お二方……ラブアンドピース!」


「「ラブアンドピース!!」」


 マスターが部屋から出て行くと鈴木と呼ばれた男が満面の笑みのダブルピースをこちらに向けてくる。

次いで他の取り巻き達も同じように、不気味な笑顔をダブルピースと共にコチラに向けてきた。


 ココの挨拶かなにかか? これは……やれ。ということか。

 気が進まないが……しょうがない。これも仕事だ。


「ラブアンドピース!」


 コチラも作り笑顔で全開のダブルピースを返してやった。


 が……やったはいいが、どうにも反応が薄い。お前らがやれと言ったんだろうが!

 ふと気付くと後ろで拓のヤツがピクリとも動かず仁王立ちのままだった。


 む。拓のヤツ……潜入中だということを忘れているのか?

 肘で小突いて促すもまったくダブルピースをする様子はない。


 やれよ!お前!皆、怯えているじゃあないか!


「お、お連れの方は恥ずかしがり屋さんのようですね。それでは、こちらにどうぞ。入信の間にご案内いたします」


 マスターに鈴木と呼ばれた男は乾いた笑い声でタハハと笑うと、気を取り直して入信の儀が行われる部屋まで案内を始める。


 くそ……拓め。バイト代減らしてやろうか。




____________




「早乙女様……その……お、お連れの方は……」


「む? どうした?」


 この男、鈴木とか言ったな……随分とオドオドしてるように見えるが……


「その……ウサギのマスクは被ったままなので?」

 

「なにか問題が?」


 小声でボソボソと……はっきり喋れんのかコイツは。

 

「その……ずっと私の方を見ている気がするのですが……」

 

 なるほど……拓が気になるか……。


 他の取り巻き連中も拓が気になってしょうがない。といった感じだ。


 まあ、そうだろうよ。

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