第31話 マスターと泣きぼくろ

「ど、どどどどどどこにいるんだね!? ええ!? 泣き泣き泣き泣き泣き泣きぼくろの女はぁあ!?」


「うぐぅ……く、くるし……な、なんだこのオッサンはぁ……」


 くっ……泣きぼくろの名前でマスターのスイッチが入っちまった。


 え?


 マスターと泣きぼくろは結局どうなったのかって?


 おいおい……今はそんな事を話してる場合じゃないだろう?


 だが……そうか……まあ、気になるよな。


 いいだろう。面倒なオッサンが気絶するまでの間にザックリと説明してやる。

 

 あれは、そう……マスターが泣きぼくろと新婚旅行でハワイに行った時まで遡る……


 マスターは一人で予定より1か月以上も遅れて帰ってきた。


 ヒドイもんだったぜ……『ヨリミチ』の前で会った時はシュノーケルと浮き輪を着けたままだった。


 ああ……そうだな。よく飛行機に乗せてもらえたもんだ。最初は泳いで帰って来たんじゃないかと思ったよ。


 それからしばらくの間、マスターは抜け殻みたいになっちまってな……


 だが……ようやく最近になってポツリポツリと話し始めた。


 ハワイに着いて最初の3日間は夢のような時間だったらしい。マスター曰く、人生で最高の時間だったそうだ。

 そして、4日目の朝……ホテルのバスルームの鏡にルージュで書かれた「サヨナラ」の文字と共に泣きぼくろはマスターの前から姿を消した。


 だが……頭がお花畑のマスターは


「ははーん……ドッキリ?」


 と帰国当日までドッキリ大成功の看板を持った泣きぼくろをウキウキで待ち続けた。

 いや……帰国予定が過ぎても待ち続けた。

 そして帰国予定日から3日過ぎてようやく不安になり、泣きぼくろを探し始めた。

 森を……山を……そして海を……


 3週間が経ち……ハワイ本島から少し離れた小島に全身昆布だらけで上陸した所をUMAと間違われ捕獲されたらしい。


 地元の新聞にはUMAとして載ったりして……

ああ、ちなみに新聞の見出しは

『Who are UMA?』

だったらしい。笑っちまうだろ?


その後は警察に拘留されたりして……散々な目に遭い。それでも、なんだかんだで帰って来た所で、オレと会うわけだ。


 そこでオレは泣きぼくろの真相を告げると激怒したマスターに殺されかけた。


 いやぁ……殺意ってああいうのを言うんだな。


 指名手配のポスターを見せて、ようやく全てを理解したマスターは抜け殻になっちまった。

 

 というわけだが……

 

 おっと……

 

 面倒なオッサンがそろそろ限界だな。

 口から泡吹いてやがる。

 

 さてと……悪いな。今日はここまでだ。


 オレは灰皿を取ると「きぇええええええ」と奇声をあげるマスターの頭を殴り、気絶させた。


 ふっ……このままじゃマスターが殺人犯になっちまうからな。

 じゃ、マスター。お代はここに……いや、今回は貸しにしとくぜ。


 血の海と泡に沈んでいくオッサン二人を残し、オレはBAR『ヨリミチ』を後にした。

 

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