第30話 ラヴ&ピース

 ステレオグラム……だっけ?

 結局この面倒くさいオッサンに押し切られてしまった……

 くそっ! 全然見えねえじゃねえか!


 ん? ………………!


「あ! 凄え! 見えた! 浮かび上がってきた! ……えっとぉ……面堂めんどう法律事務所 代表……めんどうだろう?」


 なんだ……このオッサン……めんどうだろう? って名前なのか……。名は体を現すとはよく言ったものだな。


面堂めんどう 太郎たろうだ!」


「で? 面倒なオッサン……依頼の方を聞こうか?」


面堂めんどうオッサンだ。それじゃ私が面倒くさい男になるじゃないか」


 いや……面倒くさいだろう。


 というツッコミはステイだ。よけい面倒になってしまう。ハードボイルドは金と女以外の過ちを2度は繰り返さないものさ。


「で? 依頼内容は?」


「あ、ああ……そうだね。単刀直入に言うと人を探して欲しい」


「ほう……人探しか」


「実は私のクライアントに数人、しかも同時に同じ相談をされていてね。その人達は皆、詐欺にひっかっかってしまったんだ」


「その詐欺師を探してもらいたいってワケか 」


「その通り。皆、警察沙汰にはしたくないらしくてね。……しかし困った事に……名前も顔も分からない。……クライアント達は全員違う名前を言うし……写真も一切残っていない」


 さすが『めんどうだろう』

性格も面倒ならば持ってくる依頼も面倒だってわけか……。

 しかし手掛かりなしじゃ……探そうにも……


「だが、居場所は掴めている」 


「なに? じゃあ、そのクライアント達を連れて行って面通しすればいいだろう?」


そこ・・なんだよ、面倒なのは……コレを見てくれ」


 手渡されたのはパンフレットや冊子、チラシの束だった。

 渡されたチラシを見ると。『全宇宙平和 愛融合教団』と書かれている。


「なんだコレは?」


「宗教団体さ。割と有名なんだが知らないか? 少し前に有名な俳優が出家してこの団体に入ったことで話題になった」


 ふっ……この早乙女瞳、ワイドショーには興味がない。

あ…そういえば駅前で勧誘されたことがあったな。たしか…。


「早い話、宗教法人を隠れ蓑に潜伏しているんだ。私は別件でココには嫌われていてね」


「なるほど。宗教団体への潜入捜査か……ふっ……なかなかにハードボイルドだな。しかし、1つひっかかる……複数人から聞いた、顔も名前も分からない人物。なぜそれを同一人物だと断定している」


「ちょっとした特徴があってね……皆、名前が偽名だと分かると、こう呼んでいたよ。『泣きぼくろの女』とね」


 泣きぼくろ……だと!? まさか……あの……


 ガッシャーン!

 

 グラスの割れた音の方に視線をやると、カウンターの隅にいたはずのマスターはすでに目の前まで迫って来ていた。

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