第29話 より目にすると見えるアレ

「探偵さん……なんの為に? って顔をしているね?」


 当たり前だ……なんの為にそんな……面倒くさいことを……


「ふふ……知りたいかね?」


 ぐっ……検討もつかん。依頼内容も気になる……。ニヤつくオッサンはしゃくに障るが……


「ああ、知りたいな」 


「どうしても?」


 しつこいな……


「う……うん……」


「だが……タダでは教えられんな」


「……」


「では……ヒントをあげ……」


「いや。いらん」


「ふふふ……強情だね……では、当ててみたま……」


「いや、違う。もういい。めんどい」


「ふふふ……そう。私はめんどう……え!? めんど……!? ちょ……ちょっと待ちたまえ!」


「帰る。マスター……お代、ここに置いとくぞ」


「ま、ま、待ちたまえ! 君もさっきまでノリノリだったじゃあないか!」


 席を立とうとするオレにオッサンがしがみついてくる。


「お、おい! 離せオッサン!」


「き、君でもう5人目なんだ! 頼む! 行かないでくれ! いいじゃないか! 君も私と同じでこういうシチュエーションに憧れがあったんじゃあないのかね!?」


 そう言われれば確かにそうなのだが……


「うるさい! 離せオッサン! アンタめんどいし、馬鹿にされてるみたいで気分悪いんだよ!」


「ち、違うんだ! ちゃんとした依頼があるんだ! なにも君をからかうつもりなんてない! 頼む! 聞いてくれ! 頼むぅう!」

 

 ぐあああああ! このオッサン力が強いぃ……振りほどけん!

 

「わ、分かった……聞くだけ聞いてやる。だから離せ!」

 

「わ、分かった! ありがとう!」

 

 そう言ってオッサンはオレから手を話すとフゥフゥと息を荒げながら懐に手を入れて名刺を取り出した。

 

「私はこういう者だ」

 

 取り出された名刺に手を伸ばすと、オッサンが名刺を引っ込めた。

 

「じゃあな、オッサン」

 

 ハードボイルドに三度目はない。トルコアイス屋並のしつこいムーブにオレはもう付いて行けん。

 

「あああああああ! どうしてもやっちゃうんだよぉおおお! 弁護士! 私は弁護士だ! ほら! 名刺! 名刺!」


 差し出してきた名刺を再び引っ込められないよう、ひったくるように名刺を取る。

 見ると、名刺には黒い点が2つと、後は砂嵐のような不思議な模様で埋め尽くされていた。


「なんだこれは?」


「ふふふ……ステレオグラムってやつさ。いいかい? その二つの点が重なるように目の焦点を合わせると、その砂嵐の模様から私の名前が浮かび上がって……」


 オレはその場で名刺をハードボイルドに引き裂いた。

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