第21話 四十にして立つ

 う……うお……


 うおおおおおおおおおお!?


 立った……マスターが……

 マスターが……マスターが立った!!

 うそぉ!

 泣きボクロが来たとたんマスターが立った!! え? なんで? ん? アレ?

 え? な、なんか違うとこもってる! え? なんで?

 と、とにかく……

 マスターが立った!! ま、マズイことになったぞ。

 せっかく、ここまで上手く行っていたのに……

 泣きボクロが来て。 飼い主本人が来て返さざるえなくなった『金貸しの拓』が泣きボクロに犬を返す。

 拓が帰ったところで、オレが現れ依頼料を受け取る。

 これで、なんとなくいけそうだったのに!! なのに……

 マスターが立った!! 余計なとこまで立てて……

 ああ……どうしよう…… 窓から逃げるか?

 いや、ちょっと待て! それじゃ、ただの通り魔だ。

 マスターを殴ってケガをさせ、カウンターに隠し、トイレの窓から逃亡。

 これじゃただの通り魔じゃないか!

 ダメだ! 言い訳しなきゃ! なんとか罪を逃れ……かつハードボイルドな言い訳しなきゃ!

 え?

 言い訳してる時点でハードボイルドじゃないって?

 ・・・・・・。

 いや、うん。

 なんかもうそれでいいよ。警察に捕まっちゃうよりマシ。はーい。私まったくハードボイルドじゃありませーん。


 えっと……


 お金が欲しくてやりました。

 ご、強盗じゃないか!


 なんかムシャクシャして……


 通り魔じゃない! やっぱり通り魔じゃない!!


 普段から気に食わないヤツだって……


 え? 計画してやったみたいじゃない!!

 っていうか……違う! 違うよ? 動機じゃないよ!?

 動機を考えちゃってどうするよ!

 言い訳! 言い訳を考えなきゃ! でも……ああ、なにも浮かばない!!

 もう、仲直りしちゃう?

 拓にはボッコボコにされるかもしれないけど……

 ここは素直に出て行って仲直りしちゃう?

 警察行くよりマシだよね?


 飛び出す? 勢いよく飛び出す?

 うううう……ど、どうし……


「ピーコを返せぇ!!」


 あれこれと考えを張り巡らせてる所に急に飛び込んできた怒号。

 な、なんだ?

 オレはドアの隙間からそっと覗き込む。

 声の主は……

 ま、マスターだ!!

 

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