第22話 ようするにハードボイルドとは…

「ピーコを返せぇえええええ!!」


「いや、ちょっと……それより……大怪我じゃないですか!! いったいなにがあったんですか!?」


「いいから……ピーコを……ピーコを……返せ……返せえええ!!!」

 突如立ち上がったマスターはカウンターを飛び越え、叫びながら拓へと襲い掛かった。


「うおおらあああああ!!!!」


 飛び掛ってきたマスターを物ともせず拓はマスターを抱え上げ反対側にあるテーブルに向って投げ飛ばした。


 ドガッシャーン!



「下手に出とったらイキナリなんじゃ!! ワレぁどこのモンじゃコラぁ!!」


 テーブルに突っ込んだまま動かなくなったマスターに拓が叫んだ。

 マズイ。広島弁になってる……完全に拓のスイッチが入っちまったようだ。

 いきなり立ったかと思ったら、どういうつもりなんだマスターは。

 拓に勝てるわけ……

 え!?

 壊れたテーブルの残骸を押しのけマスターは再びユラリと立ち上がった。

 そして……


「うおおおおお!! ピーコぉおおお!!!」


 再び叫びながら拓に飛び掛った。

 しかし、やはりあっけなく拓にはね飛ばされる。

 マスターは投げられても叩きつけられても殴られても……

 何度も立ち上がっては、拓に襲い掛かった。

 そう……何度も何度も……勇敢に。

 いったいなにがマスターを駆り立てているんだ。

 いったいなんの為に……



 !!



 ま、まさか……


 オレの為?


 もしかしてマスターはオレの為に必死になってピーコを取り戻そうとしているのか?


 だとしたら……


 オレはいったい何をやってるんだ?


 マスターの頭を割り……隠れて……逃げようとして……


 今オレの為に拓に向っていっている。


 なのにオレは、ここで隠れてなにをやってるんだ!?


 助けなきゃ!!


 マスターを助けるんだ!!


 は、はうあ!!


 な、足が……足が動かない……


 拓のあまりの迫力に恐れをなし、心とは裏腹に体はその場から動いてくれなかった。


 くっ! 情けない!


 なにがハードボイルドだ!!


 オレは……


 オレは……


 うっく……うおおお!!


 う、動け! 動け! オレの体!!


 く、くっそ! マスターがマスターがオレの為に戦ってくれてるというのに


 立て! 立つんだ! 早乙女瞳!!


 ガクガク……ブルブル


 体が拒否反応を示す……しかし、それでも


 それでも……オレは立たねばならない!


 なぜなら!!


 『ハードボイルド』とは!!


『ハートは』『どんなヤツよりも』『ぼ……



 ぼ……



 ぼ?



 ・・・・・。



 えーい! 思いつかん!!



『あいうえお作文』が完成しないうちにオレはトイレから飛び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る