第12話 ぼったくり

 がはっ!!

 なぜだ!? なぜここにあの男が!?


「すいません……」


 ひぃ! ……は、話しかけてきた。


「早乙女さん……こちらにいらっしゃいませんかね?」


 へ? ま、まさか……あの時、顔を見られていなかったのか?


「ああ……早乙女さん……なら今日はまだ……」


「あ……ああ、そうですか……」


 やっぱりそうだ。コイツ、オレをここのマスターだと思ってるんだ。危なかったぜ……


「ちょっと……待たせてもらってもいいですかね?」


「え、ええ……どうぞ」


 追い返そうか……そう思ったが、ここはバーだ。ここで無理に「帰ってくれ」は怪しまれる可能性が……

 幸い金貸しの拓にオレの顔は割れていないようだし……ここは、このままマスターが帰るまでやり過ごすか……

 横目でさきほどのカップルを見ると、さっさと帰りたいのだろう。ウィスキーとカクテル『ブルーマウンテン』をハイペースで飲み干そうとしている。


 気持ちは分かるぜ……


 しかし……



「あの……」


 オレは金貸しの拓に思い切って話しかけた。


「早乙女さんに、なにか御用ですかね?」


「あ、ああ……実はね? 早乙女さんにお金貸してまして……利子も合わせて15万ほどなんですけどね?」


 じゅ、15万!? そんなに借りてたっけ!?

 くっ……レジさえ開けば今すぐにでも返済するのだが……レジの開け方が分からん。

 このまま、用事があるフリして逃げるか?



「すいません……」


 ん? カップルが話しかけてきた……


「か、帰ります。いくらですか?」


 どうやらお帰りのようだ……もっとゆっくりしていけよ。こっちだって怖いんだ、一人にしないでくれ……


 ん? 待てよ……


 ……。



「えーっと……それでは、お会計……じゅ、15万になります」


「ええ!? 15万!? ちょ、ちょっと高すぎませんか!? ウィスキーとカクテル1杯ずつですよ!?」


「いえ……15万円になります、お支払い下さい」


 スマンな……ここでオレの借金を払うにはこれしか手がない……いい勉強になったと思って、ここは一つ黙ってボラれてくれないか?

 するとここで意外な人物が口をはさんできた……金貸しの拓だ。


「あの、差し出がましいようですけど……確かに15万円というのは法外じゃありませんか?」

 な!? そんな凶悪なツラで高利貸しやってるくせにボッタクリはダメですかぁ!?

 これ、むしろアレだからね!? お前の為なんだかんね!?


「こちらのお二人まだ若いみたいですし……そんな負担をかけるのはどうかと思いますよ?」



 ま、まともなコトを……



「は、ははは……じょ、冗談ですよ。えっと……じゃあ千円でいいです」


 そう言うと男の方が財布から千円札を1枚カウンターに投げ出し、二人は逃げるように店を後にした。


 ……チャンスだったのに。


 それに……


 ああ……なんてこった。






 オレはハードボイルド……


 ハードボイルド探偵、早乙女 瞳……


 ただ今……金貸しの拓とBAR「ヨリミチ」で二人っきり……

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