第11話 ブルーマウンテン

 「ウィスキーだぜ! ベイビー!!」


 オレは出来るだけロックな口調で彼の前にウィスキーを差し出した。だが……


「あ……え?」


 男はなぜかあっけにとられた顔でこちらを見ている。


 どうした!? お前だろ!? お前がロックでって言ったんだろう?

 ち、違うのか!? こういうことじゃないのか!?

 ロックンロール的なアレじゃないのか!?


 ……あ……そうか!


「……でございます」


「あ……はい」


 だよな!? やっぱお客様だもんな!? いくらロックでも「おもてなし」の心を忘れちゃ失礼だよな。


 えーっと……あとはカクテルだっけ? めんどくせえなぁ……


「しょ、少々お待ち下さい」


 あー……うん……そういえば……たしかマスターが言ってたな。


「カクテルはインスピレーションだ」と……


 うん……まあ……意味は知らんけどな。

 まあ、適当に混ぜときゃいいんだろ? なんかこの辺りのを2、3……


 ジョボジョボ


「え? あの……シェイカーとかそういうの使わないんですか?」


 し、シェイカー!? なんだ? そんなの使うのか?


 ……。


「お、お客さん……今はね? コレがナウなんですよ。NYでは当たり前ですよ。ははは」


「そ、そうなんですか?」


 ふう……いちいち、いらんこと言いやがって……まさかこの男……オレを試してるんじゅあなかろうな。

 おっと、混ぜなきゃな……箸、箸……


 カチャカチャグルグル



「で、出来ましてございます」


 ふう……なんとか出来たな……なかなかじゃないか? 色も青くてキレイだしな。


「どうぞ、お召しあがりください」


 コト


 女の前に出来上がったカクテルを差し出す。

 女はいぶかしげな顔をしながらもそのカクテルに口をつけた……そして


「あ、コレすごくおいしい!」


「え!? マジかよ!? ちょっともらえる? ……あ、ホントだ! めっちゃおいしい!」


 え!? マジで? 適当に作ったのに!?

 意外と出来るもんだなぁ……はっはっは。

 マスターいらないんじゃないか!? やっていけんじゃないか? オレだけで。


「あの……」


「は、はい?」


「このカクテルの名前なんていうんですか?」


 な、名前ぇー!? 知らなくていいだろ!? 知らなくて!! なあ!?

 覚えてられんのかよ!? なあ!?

 それ言って、お前この先ずっと墓に入るまでソレ覚えてられんのか!? ってんだよ!!


 ぐう……


 な……名前? 青いから……ブルー? ブルー……


「ぶ……ブルー……」


「ブルー?」


「こ、こちらブルーマウンテンになります」




 ……。




「それ……って……コーヒーの名前じゃないですか?」




 ……。



 マスター早く帰ってきてくれ……



 ガチャ……



 願いが通じたのか。入り口の方でドアが開く音がした。



 マ、マスターか!? 助かった!! 早いトコ変わってくれ!!

 が、そこにいたのは……



「あの……こちらに早乙女さんって方いらっしゃいます?」


 金貸しの拓だった。


 

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