第52話番外編1 そのツンデレ、止まれNEEE!・前半

「札を一枚、場に出す! 召喚! 【レインボーアイズセブンヘッドドラゴン】!」


 オレはそう宣言し、場に魔術を付与した札を出す。すると、札から魔力体で出来た7つの首を持つ7色の瞳を持つ竜が現れる。成功だ!


「なあああああああ!? ☆10の最強札!? そんな強力なものを付与出来たのか!? たった一日で!」


 カード決闘王が驚きすぎて手持ちの札を握りつぶしてしまっている上に、髪の毛が全部逆立ってしまっている。いや、驚きすぎでしょ。


「外れスキルですけど、なんとか出来ました!」

「えええええええええええええええええええええええええ!?」

「いけえ! 【レインボーアイズセブンヘッドドラゴン】で攻撃!」


 オレが場に出した最強の札【レインボーセブンヘッドドラゴン】が7つの口それぞれから各属性のブレスを放つ。とんでもなく強烈なブレスがカード決闘王の場を襲う!


「く、くくく! だがあ! 罠札発動!【不動の鉄壁】!」

「それに対して対罠魔法札発動! 【理不尽な暴嵐】で【不動の鉄壁】を消滅!」

「ぎゃあああああ! 防御態勢の札魔物達を吹っ飛ばして……う、うあああああああああああ!」


 ぼかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!


 派手な爆発音を立てながら、カード決闘王は倒れた。


「やったわ! これでトレスの勝利ね!」


 キアラもすごく喜んでオレに飛びついてくる……って、胸! 柔らかい胸がオレの身体に当たって!


「ふ、ふふふ……我の完敗だな。お前の望み通り、我の持つ付与術の全てをこれから叩き込んでやろう!」


 そう告げるカード決闘王さんの身体にオレはポンとタッチする。


「あ、大丈夫です。今、【コピー】したので、最上級付与術使えるようになりました」

「なにぃいいいいいいいいいいい!? す、すごすぎる……」

「トレス、SUGEEE!」

「「「「「「きゃあああああ! トレスさまあああ! 素敵ぃいいい!」」」」」


 気が付けば、オレにカード付与の色々をコピーさせてくれたエクスディア家の5つ子姉妹がセクシーな衣装でこっちに走ってきてる! まずい! 昨日みたいに襲われる! 暴漢に襲われているのを助けたのに今度はオレが襲われるってどういうことぉ!? ただでさえ5つ子としちゃったせいで、そのあとキアラに……。


「トレス~……?」


 今もジト目でこっちをみてる! こ、これは……今夜が大変そうだ……!


「あ、じゃ、じゃあ、オレはこれで……! さよーならー!」

「5つ子ちゅあ~ん! 誰かこのゴメスとお付き合いしたいって子は……ああ!? ま、待てよ! トレス! 俺を置いてかないでくれ~!」


 ごめん! ゴメス! ゴメスは頑張って自力で帰ってくれ!

 オレはジト目で抱き着いてくるキアラと【カット&ペースト】でヒナたちの待つ町まで戻った。


 んだけど。


「あ、あれ~」

「「「「んふふふ、ねえ、トレス~♪」」」」


 今、オレは、キアラ・ヒナ・シロ・ドウラに迫られている。頬はピンクで、荒い息で、なんというか、とてもえっちだ。


 なぜこうなったのか。

 戻ってすぐに、装備を強化しようと、コピーしたカード決闘王の付与スキルで色んな性能をつけてあげてたんだけど……。


「あ、も、もしかして……! 【コピー・鑑定】……やっぱり!」


 付与した装備に間違って【性能向上】じゃなくて【性欲向上】がついちゃってるぅううう!

 キアラが付与中ずっとオレをジト目で見てるから気になっちゃって失敗したんだ!


「ね、ねえ、トレス……はぁはぁ」

「トレスさん、身体が熱いんです……はぁはぁ」

「トレスゥ~、ボクさみしいよぉ~」

「ふ、ふふふ……トレス、まぐわおうぞ?」


 みんなの目が怖い。


「あ、あの、オレ……昨日一晩中、5人を相手したばかりで……」

「トレスなら……はぁはぁ……すぐに回復できるでしょお?」


 はい、その通りです。


「トレス……はぁはぁ……か、身体が熱いの……! おねがい、鎮めて…はぁああん、トレスゥ!」


 ああもう! 仕方ないなあ!

 そのあと、オレはキアラ達との夜の決闘になすすべなく負けてしまいましたとさ。






 これが原作らしい。

 アタシ、キアラは、はずコピという物語についてゴメスに教えてもらった。


 アタシ達は元は物語の登場人物なんだけど、その物語を面白くおもった神様によって、そのはずコピの世界が生み出され、実際に生きている人間としてこの世界に産み落とされた。

 ゴメスは、前世は違う世界で生きていてこの世界が本来どういう筋書きを辿るはずだったのかを知っていて、その物語を変えてほしいと女神さまに依頼されたらしい。


 アタシ達は、ゴメスにこの世界の真実を教えてもらった。そして、一緒に世界を変えるためにがんばっている。


 そんな中、カード決闘王編という章のお話がどういうものかも教えてもらって、正直思った。


 怖い。


 そういう危ない付与もあるのに、それも自覚せず、自分の魔力が大きいことも分からないままに付与を使うトレス。

 多分、いとも簡単にコピーできちゃって失敗とか努力・工夫とかしないからこういうことになるんだろうけど、もし、これが仮に、他に好きな人がいる子だったらどう責任をとるつもりなんだろうか。

 ゴメスの言う通り、女の子はみんなトレスのものだから問題ない世界なんだろうか。


 それってなんかいやだ。


 物語にも出てきた5つ子も暴漢に襲われていた所を助けられてトレスのことが大好きになって、すぐにトレスに迫ったらしいし。特に打算や政治的な背景があるわけでもなく、ただ、トレスが強くて助けてくれたかららしい。

 怖い目にあっていて助けてくれた人に感謝しているとか強い人に対してかっこいいと思う事はあるけど、じゃあ。すぐ好き、付き合ってほしいとはならないと思う。


『まあ、あまり真っ当な恋愛経験がないとそういう事も人生で有り得るんじゃないかって思っちゃうんだよ。俺たち男のむなしい願望ってやつだ』


 アイツはそういってツルツル頭をぺちぺち叩いて笑っていた。

 願望。

 この世界は、物語の創造主と神様の生み出した世界。

 だから、その願望が色濃く反映されている。



 だから。

 アタシもトレスのことが好きだった。

 魔物に襲われていて助けてくれたトレスを一瞬で好きになった。

 ちょっと馬鹿にしていたのに、助けられてコロっと。

 トレスの事、大好きだと思っていた。


 でも、今は……。


「ん? どした? キアラ?」


 アタシの視線にすぐに気付いてこっちを見るおじさん、ゴメス。


「……ううん、なんでもない」


 もしかしたら、これも女神さまの何か力なのかもしれない。

 だって、ゴメスは……。

 アタシがトレスとの力の差とか才能の差とかあるのに落ち込んでたら気付いてくれて励ましてくれて、オークに酷い事されそうになった時に弱いのに身を呈して助けに来てくれて、アタシのことをずっとSUGEEEEって褒めてくれて、オークとの戦いが終わったあともアタシが落ち込んでいるとすぐに気付いて褒めて励ましてくれて、アタシが努力してちょっとでも成長したなと感じてたらすぐに気付いて褒めてくれて、何気なくやったこととかちょっとした一言とかもいいと思ったら褒めてくれて、偉そうにしないし優しい。


 ……いや、良すぎるでしょ!


 いやいやいや、でもでもでも、ゴメスはおじさんだし、しかも、どすけべだし、あんまり強くないし、すぐふざけるし、どすけべだし、悪いところもある! けど、おじさんだけど偉そうにしないしすごく紳士だし、どすけべだけどアタシたちがいやがることは絶対にしないし、強くないけど頭よくてサポートはすごくうまいし、ふざけるのも空気が重い時や元気を出させたいって時だし、どすけべだけどそういうお店でしかいやらしい事はしないっていうし。


 ……いや、結局良すぎるでしょ! いやいや、最後のはやっぱりちょっとひっかかるけど。


「キアラ? おーい、かわいいかわいいキアラちゅわ~ん?」

「なによ! いやらしいお店に行くくせに!」

「はい、すみません! え?」


 思わず溢れた怒りが言葉に変わって口から飛び出てしまう。それに反応して謝るゴメス。


「あ、ご、ごめん。なんでもない」

「いやいやいや、なんでもないってお前……なんでお前俺が店に行ってることを……は! お前、もしかして、金に困っているのか!? 確かにお前ならすぐにナンバーワンになれるだろうが……よおし、わかった! おじさんがキアラちゃんにお小遣いをあげるから、やめておきなさい! その代わり、お店に行ったことは黙っておいて下さい!」

「だから、なんでもないって言ってるでしょうがああああああ!」

「無詠唱の氷の槌、SUGEEEE!」


 それにアタシは知っている。ゴメスは色っぽい女の人がいっぱいいる店にまだ行ってるけど、本当はいやらしいことはしていないってことを。そこの店長がゴメスに、聞いたことがある。『いっぱいお金出してくれてるしサービスするわよ』って。そしたら、ゴメスは……。


『いやー……保護者がうるさいからなあ。やめとくわ』

『ふふふ、そうね。浮気はよくないわよね』

『いや、浮気って……別に付き合ってるわけでもねえし』

『でも、一途に思ってくれてる子に対して不義理だと思ってるんでしょ?』

『……はあ~、まあな。俺みたいなおじさんじゃ釣り合わねえって言ってんのに聞きやしねえ』

『嫌いって言えばいいじゃない』

『そしたら嫌いな理由言えって言うんだよ! 言えねえよ! だって、ないもん! それに俺の口が勝手に褒めちゃうんだよ! アイツら褒めるところしかないから!』


 そう言ってくれた。


 ちなみに、これはちょっと偶然覚えた探知魔法と音を操作する魔法と気配を消す魔法を使っていたら、偶然女の人がいっぱいいるお店にたどり着いてしまって、偶然そこにゴメスがいて、偶然盗み聞きしてしまっただけで、特に意味とかない。


 意味とかはないけど、まあ、それなりに、普通に、すっごく嬉しかった。


 ゴメスは本当に息をするように褒める。

 それが他の男の人やトレスと違う。

 トレスは、


『キアラは、すっごくかわいいよ』


 って言って、笑ってずっとこっちを見てる。最初はただほんとにかわいいと思うから見てくれてるんだと思った。だけど、ゴメスに褒められているのにちゃんと気づいてから分かった。トレスは、いつだって感謝の言葉を待っている。

 褒めた自分に見返りの言葉が欲しくて待っている。


 特別なものをあげたんだぞ、オレが褒めたんだぞって顔をしてる。


 ゴメスは違う。ただ、そう思ったから褒めてくれる。だから、褒めた後も普通に会話を続けたり、どっか行ったりする。

 それがかっこいい。

 ゴメスは、すっごく好かれたいと思っているわけじゃない。

 ただ褒めて嬉しくさせてあげたくて言っている。

 それは、見返りのない、あ、愛だと思う。


 今も地面にひっくりかえってぴくぴくしてるだけのおじさんなのに。

 アタシは、このおじさんが……。


「ゴメス、あのね……アタシね」


 アタシが自分の気持ちを言葉にしようとしたその瞬間、窓から一枚の札が飛んできて柱に刺さる。

 このアタシの気持ちを伝えることが邪魔されるのも、ゴメスの言うチャラ神様の力なんだろうか。

 ゴメスは、起き上がるとぺちぺち頭を叩きながら刺さった札に近づき抜き取る。


「キアラ、決闘の時間が決まった。明日の朝だ。あの5つ子にカード決闘で勝てば、カード決闘王様が会ってくれるそうだ」


 アタシの気持ちは置いてけぼりのまま、物語は進んでいくし、おじさんも先を見る。

 だったら、アタシは必死についていくだけだ。


「わかったわ。頑張りましょう、ゴメス」

「ま、お前はもう十分頑張ってるけどな、ほんと助かる。ありがとな」


 ゴメスのくれる言葉を力に変えて、未来を変えてみせる。


「って、ゴメス。どこに?」

「ん? ああ……ちょっと、情報収集に」

「……綺麗な女の人のいる夜のお店?」

「そうだな」


 分かってる。ゴメスは別にいやらしいことはしない。だけど、それでも、だって……!


「ゴメスのばかあああああああああああ!」

「無詠唱巨大氷槌ぃいいい! キアラ、SUGEEEE!」


 この気持ちは止められない! だから、仕方ないのだ!


「さあ、ゴメス! カード決闘王に会うために一緒にがんばるわよ!」

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俺TUEEE系主人公に、お前SUGEEEっていう役のポジションおじさんなんだけど、みんなを褒めてたら主人公がモテなくなってなんかごめん だぶんぐる @drugon444

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