第51話 みんな、TUEEE!
トレスをぶっ倒したことで未来は、世界は変わった。
トレスのチートでぼかーんで魔王倒して世界平和―という無自覚チートシンプルファンタジーは終わりを告げた。どうなるか分からない物語が始まりだした。
そして、終わった。
あっという間に終わった。
だって、みんなすごいんだもの。
トレスをぶっ倒したんだよ。そりゃすごいよね。
その上、そのあともみんなどんどん成長し始めるんだもの。
そりゃみんなすごいよね。
しかも、みんな競うように成長し続けるんだもの。
何で競うようにって? そりゃ……俺に褒められるためだよ。
成長、褒める、快進撃、褒める、努力、成長、褒める、の無限ループ。
みんなの成長でぼかーんで魔王倒して世界平和~という努力熱血シンプルファンタジーで終わりを告げた。
だけど、これはただの物語じゃない。俺達はその物語が終わっても生き続けなければならない。
俺は……
「おいおーい、ルーキー。随分とデカい口叩くなあ。よーし、おじさんがいっちょ小娘の実力を見てやろうじゃねえか」
と、ギルド試験テンプレを吐いていた。
すると、少女は俺を見て……
「は、はい! 褒め王ゴメスさんに見ていただけるなんて光栄です! まだまだ未熟者ですが一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします!」
深々と頭を下げた。そして、周りの冒険者達もざわついている。
「あの子、ゴメスさんに直接見てもらえるのずっと夢見てたもんな」
「ちゃんと自分の力を把握するんだぞー!」
「……はい! いきます!」
少女が剣に雷を纏わせて飛び掛かってきた。
ぶっちゃけめっちゃ強かった。眉毛がちりちりになった。
魔法で元に戻してもらったけど。
「……というわけで、他との連携の為にも、もう少し雷の魔法の調整が出来るようになった方がいいな。もっと何度も繰り返してみて自分の実力をしっかり把握した方がいい」
「はい! なるほど……なるほど……ありがとうございます!」
しっかりメモを取る少女。ギルドルールをしっかり守っている。
「じゃあ、私、他の測定結果を貰ってきます!」
そう言って少女は、ギルドの測定結果を受け取りに行く。
「魔力計測の方~? ああ、貴方は魔力計測機を壊すほどの魔力だった子ね。貴方は魔法大学で正確に測ってもらってください」
「武力を知りたい奴! 模擬戦は必ず3回以上受けること! まぐれも奇跡も必要ない! 生きるために必要なのは正確な実力把握だぞ!」
「スキル鑑定待ちはいるか!? 今なら空いているぞ! スキル鑑定が終わった人間はスキルの使い道を一度ギルド相談員に相談するように! どんなスキルでも使い道はある! 外れスキルなんて思い込むな!」
今日も冒険者ギルドは騒がしい。
新しいギルドマスターによって徹底的な検査とカウンセリングが行われることで自分をちゃんと知り、冒険者のモラルや生存率が向上し、今や冒険者は人気職だ。
これには、全知の魔女や万能天使や竜の女王の協力なしでは成しえなかったことだが、以前の雑な冒険者ギルドでは考えられなかったことだ。
この世界では、多分もう無自覚チートは生まれない。無自覚チートによる面白コメディファンタジーは始まらないだろう。
だけど、きっと素敵で面白くてドキドキする物語は毎日のように生まれているはず。
一生懸命努力して、友情や愛をはぐくんで、勝利を手に入れる為に戦う物語が。
「SUGEEEいい世界だな、俺にとっては……」
そう、未来は分からないけれど、それでも俺にとってはいい世界だ。
「ゴメスさん、ギルドマスター達がお呼びです」
「……はい」
多分。
「……それでね、ゴメスさん。西大陸に冒険者達が探索を始めたんですが、死亡率ゼロで無事に帰ってきたんですよ。ゴメスさんから頂いた意見のお陰です」
「そ、そっかー、いや、ありがとな。すごいな。お前がちゃんと色々と手回しして、安全を確保した計画を立てたんだもんなー。すごいなー、ヒナは」
「うふ、うふふふふふ。あ、あと、私特製のゴメスさんの将来プランはご覧いただけました?」
見てない。怖くて見てない。
「ゴメスゴメス! ボクの開発した魔導具使ってる!? あの障壁魔法付指輪があれば、かなりの攻撃防げるからね! ゴメスいつもムチャするから、まあ、それもかっこいいけど!」
「お、おおお、ありがとなー。いろんなこと勉強してこういうモノまで作れるようになったんだもんなー。おまけに冒険者としても大活躍らしいな、すごいなー、シロは」
「いひ、いひひひ。ごめんね、ちょっと指輪のサイズが分からなくて左手の薬指にしかはまらなかったみたいで」
不思議だな。なんで薬指にぴったりだったのか不思議だな。
「ゴメスよ。儂のプレゼントした屋敷ではゆっくりくつろげておるか? 不便なことがあれば教えるのじゃぞ。お前の言葉を各種族の長も学びたいと言っているからな身体は大切にな」
「お、おお、ありがとなー。流石竜だけじゃなく色んな種族を纏める女王様だ。何もかもが計算されていて滅茶苦茶快適だよ。仕事もしっかりこなしているのにすごいな、ドウラは」
「くふ、くふふふ。ところで、ゴメスよ。寝室の家具を移動させたようだが不便ではないか。あのベッドは壁から離した方がよいと思うぞ」
でも、なんか壁に外から入ることが出来る隠し通路に繋がる隠し扉があったからね。
塞いどいたほうがいいかと思ってね。
「ゴメス……あの、また、新しい魔法思いついたんだけど……ゴメスのアイディアのお陰だから、ありがと……」
「お、おお、ありがとな。ほんと毎日毎日努力しててすごいな、キアラは」
「うん、あの……ゴメス、アタシね、ゴメスの事やっぱり、す」
「SUGEEEよなあ! 本当にキアラは! SUGEEE!」
あぶねえー! 何がとはいわないがあぶねー!
だって、この人たちすごすぎるんですよ!
冒険者ギルドのギルドマスターであり、教会の聖女、大陸同盟のご意見番でもあるヒナは、今、女神の生まれ変わりと呼ばれ、大陸中の人々から愛されている。
最強冒険者であり最高の錬金術師と名高いシロは、大陸の全冒険者・全錬金術師から尊敬されている上に、大陸の学校の最高責任者として子供達の憧れの存在。
ドウラは竜族の長であり、ドワーフやエルフ、獣人、人間、異種族を纏める大陸同盟の代表となり、全種族の王族貴族から求愛を受けているらしい。
そして、キアラは全知の魔女と呼ばれ、常に人々の為の魔法を生み出しながら、大いなる悪が生まれた時には颯爽と現れ救いの手を差し伸べるヒーローだ。
その全員が忙しい合間を縫って、俺に迫ってくる。
なんでやねん!
俺は昔も今もクソデカボイスおじさんなんだよ!
まあ、今は冒険者アドバイザーとしてみんなから褒め言葉を求められているけれどやっていることは変わってない。
そんな俺にハーレムは荷が重い。俺は自分をよく分かっているんだ!
今のこの状態でいいじゃない! いくらでも褒めてあげるからさあ!
ちなみに、原作で結婚するはずだった未亡人は、竜の戦争で旦那が生き残り、未亡人じゃなくなっていた! よかったね!
もうほんと、お姉ちゃんのお店でうはうはしてるダメなどすけべおじさんでいいのに!
すっごい頑張るヒロインズを見ていたらうかうかそういうお店にもいけない。
「……そういえば、ゴメスさん。昨日、キャルさんのお店で随分楽しそうだったらしいですね?」
「「「……え?」」」
俺は部屋を飛び出した。逃げ足は早い! それがゴメス!
冒険者ギルドを飛び出した瞬間、俺と並走してくる奴らが。
「ゴメスさん! 久しぶりです!」
「おお、トレック! 元気そうで何より! それに、トレスも!」
「あ、ああ……おかげさまで、ありがとう、ゴメス」
トレックとトレスは今冒険者コンビとして活躍している。
トレスは、あの敗北の後、憑き物が落ちたようにすっきりした顔で、今までの振る舞いを反省し人が変わったように努力し始めた。
トレスもトレックも【コピー】はキアラ達に定期的に封印してもらって、今は、自分の地力だけで色々な依頼をこなしているそうだ。
「スキルなしでそんな頑張るなんてやっぱSUGEEEな、お前」
「……うん、俺スキルなしだけど、今が一番満たされてるよ」
「今のお前、めっちゃかっこいいよ」
「今が一番いい。自分でもそう思う。嫁もそう言ってくれるし」
そう。
トレス、既婚者。
ディアナと結婚した。ディアナと二人でイチャイチャラブラブらしい。
そう。
コイツすっごいラブラブ。
う、う、UZEEEEEEEEEEEEEEEEE!
なんでやねん! なんでやねん! なんでやねん!!!!
なんでお前がちゃっかり幸せゴメスポジションやねん!
しかも、コイツ、ちらちら俺の方を褒めてほしそうに見てるんですけど!?
くそ! だが! ちゃんと自分を知り、好きな人を大切にすることは……
「トレス、お前SUGEEEよ。SUGEEE立派だよ……!」
「あ、ありがとう! ゴメス、オレ、もっとがんばるよ!」
ぱあっとした笑顔を浮かべる爽やかトレス。
きっと俺はSUGEEE作り笑顔だろうなあ。
「あ! ゴメスさん! 上!」
上? 作り笑顔のまま見上げると……。
「ゴメスのばかぁあああああああああ!」
親方! 空からヒロインズが!
そして、俺は気を失った。
『やってる?』
『居酒屋じゃないんですからそんな気軽にこっちに来ないで貰えますか?』
『女神さま、いや、俺のせいじゃないんですけど』
『冗談ですよ、ゴメスさん。ありがとうございます、世界を変えてくれて』
『これでよかったんですかね』
『これでよかったんです。みんなが平等で、褒められたくて努力する世界で』
『そうですか、なら、よかった』
『何か褒美をあげられればいいんですが』
『あー……いえ、そうですね。褒め言葉の一つでいいです。あとは自分で頑張ります』
『……ふふ、本当に貴方がいてくれてよかったです』
『俺も素敵な女神さまにみつけてもらえてよかったです』
『じゃあ、そろそろ彼女たちの治癒が効いてくる頃なので』
『あー、そういえば……あのー、ゴメスの将来ってこれ、どうなるんですかね……?』
『未来が分からないから努力するんじゃないですか?』
『ですね』
『あ、ただひとつだけ』
『なんです?』
『近い将来、貴方を褒めたたえる像が作られます。1億年に一人の褒めの天才。ツルツル頭が輝く像を自信満々に笑う4人の女傑たちの像が取り囲んでいるそうです』
『……なぁあああんでだよぉおおおおおお! 俺SUGEEEなあ!』
と、叫んだ時パッと目が覚めた。
そして、俺を取り囲む像じゃない本物の美少女美女たち。
さらに、その周りに彼女たちの努力や凄さに惹かれ集まった人々。
そんな人々が一生懸命働いて笑顔を生み出している街、国、世界。
これからもきっとみんな褒められたくて努力し続けるんだろう。
色んな苦難が起きても負けない。
かっこいい世界。
そして、
「みんな、TUEEE」
キアラが、ヒナが、シロが、ドウラが、笑いあって、俺を見て言ってくれたんだ。
「「「「あなたもTUEEE」」」」
ぺちぺち頭を叩きながら俺は大きく息を吸う。
無チート自覚おじさんは今日も声をあげつづける。
『俺TUEEE系主人公に、お前SUGEEEっていう役のポジションおじさんなんだけど、みんなを褒めてたら主人公がモテなくなってなんかごめん』完
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これにて本編完結です。お読み下さりありがとうございました!
少しだけ番外編続きますので、よければお付き合いください!
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