第9話

 私は退院した日の夜に、人生初の彼氏ができた。


 まさか、こんな急展開になるとは思わなかった。彼氏もとい、ライは見かけこそクール系だが。なかなかに明るく、喜怒哀楽もはっきりしている人だ。私は退院できたが、高校の卒業式には出席できなかった。そう、現在は三月も中旬である。なので、間に合わなかった。けど、代わりに父が出席して卒業証書をもらってきてくれた。理咲と一緒に担任の先生に掛け合ってくれたらしい。先生は最初こそ驚いたそうだが、父から理由を聞いた。すると、了承してくれたと理咲が説明してくれたのだった。

 なので、高校の卒業資格は何とか取得できた。


 私は四月になると、父と相談して短大に通う事にする。受験も通り、入学はできた。卒業するまではライと遠距離恋愛になるが。彼にはあらかじめ、伝えておいた。ライは寂しくなるなとだけ、言った。

 こうして、私は短大に通うために元いた町を離れ、東京に行った。


 二年後、私は短大を卒業してある大手の会社に就職した。ちなみに、元いた所から二駅分離れた町に会社のビルはある。私は父が心配だからと故郷の町に帰って来ていた。ライも大学を卒業して、ある中堅の会社に就職している。互いに社会人になったから、会える回数は限られているが。それでも、短大時代に比べたらかなりマシだ。


「……明里、今日は家に寄ってかないか?」


「うん、いいよ」


 頷いて、ライと二人で外灯が照らす下、ゆっくりと歩いた。大学時代よりもライは随分と大人びていた。私も高校生の時よりは現実的になったとしみじみ思う。

 ライの住むあの一軒家に向かった。


 一軒家にて、私は外泊した。いわゆる朝帰りだ。まあ、父は怒らないだろうが。私はライと二人で自宅に帰る。玄関まで送るとライは手を振り、去って行く。小さく振り返してから、中に入った。


 さらに、時間は過ぎていく。私が就職してから、早くも三年が経っていた。ライは二十五歳になり、私も二十三歳になっている。この年の元旦に、ライは初日の出の下でプロポーズをした。


「……明里、結婚してください!」


「はあ、私で良ければ」


 了承すると、ライは嬉しそうに破顔した。私は気恥ずかしいながらもライに抱きつく。強く抱き返されたのだった。


 あれから、ライは私の家に婿養子として入ってくれた。父が寂しがるし、私が一人娘だからという理由だった。

 私とライの間には四人もの子供が生まれた。上が息子二人で下が娘二人だ。

 名前は長男が悟、次男は奏汰かなたという。長女は蘭、次女は祢々ねねといった。皆、明るくて元気な子達だ。


「母さん、奏汰が寝坊してるよ」


「あ、本当ね。蘭、祢々。早く起きなさい!」


 私が声を掛けると、慌てた様子の蘭達が二階から降りてきた。


「……あー、遅刻しそうだあ!」


「目覚ましをかけてなかったの?」


「忘れてたの!」


 蘭は慌ててはいるが、制服は着ていた。祢々もだ。私はやれやれと思いながら、子供達にそれぞれのお弁当を手渡す。


「さ、早く行きなさい。本当に遅刻したら、あんた達も嫌でしょう?」


「「「「はーい!」」」」


 子供達は返事をして、玄関に向かう。夫のライは苦笑いしながら、私の傍らに来る。


「毎度の事ではあるが、元気なもんだ」


「本当にねえ」


 二人で言いながら、笑い合う。今は凄く、賑やかながらに明るい家庭を築けていた。

 父も自室からやって来る。


「毎朝、賑やかだなあ」


「うん、蘭や祢々も中学生だもの。これから、元気な時期よ」


「確かにな、明里の学生時代を思い出すな」


 父はそう言って、穏やかに笑う。三人でしばらくは子供達の話をするのだった。


 ――終わり――

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幽(かす)かな少女と月影の青年 入江 涼子 @irie05

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