第8話
退院した日の夕方、私は完成した豪勢な料理を前に顔を引きつらせていた。
ライさんが作ったエビやイカなど具だくさんなシーフードグラタン、依都さんお手製のだし巻き卵に照り焼きチキン、叔母が作ったぶり大根や揚げ出し豆腐。さらに、理咲が作ったフルーツポンチが異彩を放つ。
ライさんは自宅にて作ったらしい炊き込みご飯も持参していた。具材は人参やゴボウ、しめじに鶏肉などが入っている。
「明里ちゃん、好きなだけ食ってくれな」
「……うん」
ライさんがいい笑顔で言った。私や理咲、父は品数の多さに驚きながらも椅子に座る。依都さんが酒屋さんで買ったらしいノンアルコールのシャンパンやビールを用意した。
「さ、西藤さん。今日は明里ちゃんが退院できましたし、パーッとお祝いしましょう!」
「……はあ」
父は神妙な表情ながらも、依都さんがコップを受け取る。中にはシャンパンが注がれていた。私や理咲にはウーロン茶だ。ライさんや叔母もビールをコップについで、乾杯している。
「……じゃあ、明里ちゃんの無事の退院を祝して。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
依都さんが音頭を取り、ライさんや父、叔母が持ったコップをカチンと当て合う。私と理咲も真似だけはした。
「……理咲、グラタン美味しいね」
「うん、ライさんは料理が上手いよね」
二人で座りながら、早速食事を始めた。大人組はわいわいがやがやしながら、料理に手をつける。まあ、今日くらいはいっか。私は大人組を眺めながら、グラタンをつついた。
午後五時から始まった退院祝いの宴会は、お開きとなりつつある。私はグラタンにだし巻き卵、照り焼きチキンなどをたらふく食べた。ライさんや依都さんお手製の料理は文句なしの美味しさだった。叔母が作ったぶり大根や揚げ出し豆腐もなかなかだったなあ。シメというか、デザートのフルーツポンチは炭酸水が入っていたのでシュワシュワしながらも甘酸っぱいフルーツの味が相まって、これも美味しかった。
もう、お腹いっぱいだ。私は理咲が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、ゆっくりと寛いでいた。
「……明里、ライさんが呼んでるよ」
「え?」
理咲が言ったが、ぼんやりとしていたせいで反応が少し遅れる。理咲は苦笑いしながら、もう一回言ってくれた。
「ライさんが呼んでるって言ったの、後ろにいるよ」
「……あ、ライさん?!」
「……明里ちゃん、悪い。ちょっと、君の部屋に行こうか」
私は驚きながらも、頷いた。ライさんは真剣な表情で踵を返す。飲んでいたコーヒーを呷って、一気飲みする。急いで追いかけた。
私の部屋に行き、ライさんと二人で入る。ドアを閉めて、彼と向き合う。
「……明里ちゃん、いきなりで悪いが。その、俺さ。君の事が前から気になってたんだ」
「……え?」
「まあ、分からないよな。はっきり言うよ、俺さ。明里ちゃんの事が好きなんだ」
私はあまりの出来事に目を白黒させた。ライさんは返事を待っている。何とか、声を絞り出した。
「……あ、あの。ライさんが私に親切にしてくれてたのは、仕事でじゃあなかったの?」
「まあ、最初はそうだった。けど、一緒に過ごす内に変わっていって。今は君に対して、異性としての意識は持っている」
「そう、私で良かったら。お願いします」
顔が熱くなりながらもOKの返事をする。そうしたら、ライさんは照れ笑いの表情になった。
「よっしゃ、告って良かった〜」
「……はあ」
「ありがとな、明里ちゃん!」
「あ、俺の事は呼び捨てでいいぞ。君の事も明里って呼ぶからさ」
「うん、よろしく。ライ」
あまりのハイテンションぶりに私は付いて行けない。が、ライさんもとい、ライは嬉しそうだ。しまいには、私の事を抱きしめてきた。額に軽くキスもされる。初めての事にさらに、顔は熱くなった。ライはにこやかに笑いながら、抱きしめる力を強めた。
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