第7話

 私が目覚めた日から、さらに一ヶ月が過ぎた。


 入院期間も残すところ、後半月となっている。現在は車椅子や松葉杖がなくてもゆっくりとなら、歩けるようになっていた。毎日のリハビリのおかげだ。ちなみに、親友の理咲や叔母、父が時間があれば、お見舞いに来てくれている。ライさんや依都さんもだ。特にライさんは三、四日に一度は様子を見に来てくれている。そのたびに、私が好きなお菓子や飲み物、漫画などを差し入れてくれた。

 今日も差し入れにと、缶コーヒーやロールケーキを持って来ていた。


「何というか、いつも悪いわね。ライさん」


「いや、俺がしたくてやっているんだし。それはそうと、明里ちゃん」


「どうかした?」


「だいぶ、歩けるようになってきたよな。退院ができたらさ、何か作ろっか?」


「え、いいの?」


「ああ、明里ちゃんの好きな物を作ってやるよ。と言っても、俺が作れそうなのにしてくれたらさ。有り難いんだが」


 ライさんはそう言って、顔を薄っすらと赤らめた。私は不思議に思う。もしかして、ライさんって?

 ふと、ある事に気づいたが。それには蓋をして、笑い掛けた。ライさんは仕事で来ている。決してそれはあり得ない。内心で自身に言い聞かせながら、返答をした。


「……そうだなあ、エビが入ったグラタンがいいかな」


「分かった、グラタンな。後は何かないか?」


「うーん、だし巻き卵もあればいいかも」


「ん、だし巻き卵もか。覚えとくよ」


「え、ライさん。二品も作ってくれるの?」


「ああ、君が食ってくれるんならさ。やる気も出てくるしな」


 私は思いもよらぬセリフに動揺した。驚きを隠せない。


「……わ、分かった。楽しみにしてるね」


「おう、じゃあ。もう夕方だから帰るわ」


「うん、またね」


 ライさんはひらひらと手を振りながら、病室を出て行く。私は小さく手を振り返したのだった。


 こうして、半月は過ぎた。無事に私は退院日を迎える事ができた。父や叔母が迎えに来てくれる。


「……明里、今日は退院祝いに鷹崎さんや井原君も来てくれるぞ。理咲ちゃんもな」


「え、本当に?」


「ああ、確かな。鷹崎さん達が手料理を振る舞うとか聞いたが」


「そういえば、井原さんが前に言っていたっけ」


「そうだったのか」


 父は納得したように、笑う。叔母が自動車に乗るように促した。先に後部座席に私が座り、荷物を父がトランクに仕舞う。叔母は助手席に腰掛けて、シートベルトを締める。父も後で運転席に座り、同じようにした。自宅に向けて病院を後にしたのだった。


 午前十一時過ぎに、自宅に着いた。自動車から降りると私は先に中へ入る。やはり、我が家が一番だ。荷物を父が降ろして持って来てくれる。


「明里、これ。部屋に持って行ってくれ」


「はーい!」


 私は荷物が入ったボストンバッグを持ち、自室に行った。床に一旦降ろし、ドアを開ける。ボストンバッグを中に入れて、ドアを閉めた。チャックを開け、中身を出す。洗濯物はどけて他の物を勉強机や棚などに戻した。細々とした物も同じようにしたのだった。


 お昼の十二時半頃に依都さんやライさん、理咲がやって来た。三人共に両手いっぱいに食材を抱えている。


「「「お邪魔します!」」」


 三人が揃って、声をあげた。私は父や叔母と出迎えたが、顔が引きつる。何を作るのだろうか。無性に気になった。


 ライさんや依都さん、叔母が台所に立っている。ちなみに、ライさんはグラタンを担当で依都さんはだし巻き卵や鶏もも肉の照り焼き担当、叔母は何故か父の好物のぶり大根や揚げ出し豆腐担当と決まった。理咲もデザートでフルーツポンチを担当している。


「……明里、まさか。井原君達が手料理を本当に振る舞ってくれるとはな」


「うん、意外だよね」


「まあ、皆さん好意でやってくれているんだ。有り難く、いただこう」


「そうだよね」


 二人して頷き合う。こうして、ライさん達を見守った。

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