青いりんごのうた

道草

第1話

 変わりたいな、そう思う機会が増えてきて

 冷えた指先のなかに、変われない自分を見た。

 まだ青い私のこと。

 突き刺さった棘はいっそのこと奥まで突き刺して

 なかったことに。

 嘘で塗り固めた日常紛いに居座って

 ただ時間が流れていくままに。

 渋い味のする記憶を舌の上で転がして

 甘くなるのを待っていた。

 床の隙間に新しい芽を探して

 空を覆う黒い布の穴から、微かな光に手を伸ばしては

 曲がり角に、机のなかに、本の間に

 こころの在り処を求めた。

 SOSは誰にも届かず

 空気に溶けて消えていった。

 沈んでいくだけの、青い私と。


 意外と大丈夫なんだな、そう安心して

 鏡越しに、消えきれない自分を見た。

 まだ青い私のこと。

 痛くたって腕をつねってしまえば

 目立たないからと。

 人間モドキの毎日を過ごしながら

 人が流れていくままに。

 どれだけ舐めていても

 渋いものが真ん中から溢れ出てくるらしい。

 表情の塗りつぶされたヒトの間を縫って

 黒く風になびく獣に歩み寄っては

 ポケットに、枕の下に、まぶたの裏に

 こころの隠し場所を求めた。

 呼吸の音さえ埋もれて

 心臓だけが残った。

 音を発することをやめた、青い私と。


 もう止めよう、そう思ってしまう。

 存在していても誰にも気づかれないのなら

 いっそのこと消えてしまうのがいい。いい。

 青いまま消えてしまおう。

 サヨナラ、そう言いかけて

 夜が明けようとしていることに気付いた。

 それは赤く溶け出して

 青くなった憂いをほどいていった。

 舌の上の渋みが消えたかと思うと

 床の隙間から花が咲いていた。

 空を覆うものはなくなっていた。

 ヒトの表情は隠されていなかった。

 森の木々が光っていた。

 そこは優しい音で溢れていた。


 赤く染まりゆく私に

 誰かが声をかけた。

 明るい方へ

 視線が動いた。

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青いりんごのうた 道草 @michi-bun

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