星になって

 僕は今から飛び立つ。僕は幸せだった。君の幸せを願う。願うばかりだよ。


僕と出会ったのは、教師として、初赴任の時だったね。僕がハンカチを落として、それを拾ってくれた。可愛らしかったね。僕の心に今から散っていく桜のように美しく思えた。

僕は最初の授業で緊張したよ。だってさ、みんな女学生だからね。僕は男子もいると思っていたから。

いつも、女学生からかわかわれてさ、恥ずかしかったよ。僕はそんなに色男だったのかな?なんて、自分で言うか、笑わせるなよ。

そういえば、一番前の席でさ、僕の事をじろじろ見てたよな。何度、黒板を見るように注意したことか、想えば懐かしいな。

後、1時間もすれば出撃か、蝉がやけに鳴いているじゃないか。


「すいません、ハンカチを落としましたよ」

「あ、ありがとう」

「もしかして、今日から教えてくれる先生ですか?」

「君は何年生かな?」

「私は3年生です」

「それじゃ、そのとおりだね」


あの時のハンカチを持っていくよ。なぜ今になって想いだすかな。

もう、忘れようと決心したじゃないか。

あの時ね。


「先生、いかないでください」

「そういう訳にはいかないんだよ」

「どうして?私の先生でしょ」

「仕方ないじゃないか」

「せめて、最後に私を抱きしめてください」

「いや、それは出来ない……」

「どうして、どうして……」

「そうしてしまえば、いけなくなってしまうだろう」

「それなら、やっぱり、抱きしめてください」

「それでは、行ってくる……」

「いやです、先生……」


どうして、最後にそんな辛い事をいうんだ。抱きしめられなかった、最後までね……でも、僕は一応教師だからさ、できないんだよ。それだけは出来なかったんだよ……

これ以上辛い想いをさせないでくれよ。

今は野原に横になっているよ。白い雲が可愛らしくみえる。

想いだすじゃないか。

そういえば、よく、昼休みに近くの海辺を二人で歩いたね。

こっそりだったね。他の女学生にわかってしまうと大変だからさ。

海を眺めている横顔は美しかったよ。

僕は海以上に眺めていた。


そういえばさ、僕と手をつないでいい?って言ってたかな。

そんな馬鹿な事を言うなよ。

それは僕だって繋ぎたかったよ。

でも、できないじゃないか。


今の気持ちはそれに対する後悔かな、せめて、手を繋ぐくらいはしたかったな。

二人でみた夜空はきれいだったね。

あの頃は特攻兵として志願していなかったからさ。

今、思えばよかったよ。

ほら、言っただろう。


「先生、星がきれいですね」

「ああ、本当だね」

「私と星はどっちがきれいですか?」

「それは、星かな」

「もう、先生、嫌い」

「そんなことを言うなよ」

「じゃあ、私を抱きしめて」

「それは出来ないよ……」

「どうして、弱虫」

「もう、なんど、仕方ないだろうと言わせるんだ」

「だって、仕方ないでしょ。先生の事が好きですから」

「じゃあ、せめて、名前で呼んで、いつも君は君はっていうから」

「それは……」

「どうして、いつも、そこで黙るの?」


いつも、名前で呼んでいたよ。心の中ではさ。

だって、恥ずかしかったんだよ。

心の中で呼んでいる名前を言うのがさ。

だから、君って言っていたんだ。

でも、ちゃんとどこかに名前で呼ぶからね。

はっきり呼ぶからね。

でも、それは秘密だよ。

何を訳の分からないことを言っているんだ。

どうして、今、名前で呼べないかって?

それは今になって恥ずかしいからだよ。

君ってすら、呼べないじゃないか

弱虫だね。また、笑わせてくれるか……

僕は生まれてきて母も父もいなかった。

それもあったのかな。

だから、わかるよ。僕と同じ気持ちがわかるんだ。

辛かったからね。

幸せになるために、僕の事を忘れてくれ、なんて、僕は言えない。

悲しいじゃないか。そう言った方がかっこいいけどね。

たまには思い出してくれるとうれしいな。

そろそろ、プロペラが回る音がきこえてきたよ。

それでは

僕は星になってくるからね。


そうだったのか、だからか、わかったよ。富岡さん。

私は今から国が幸せになれるように頑張るよ。



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恋歌の音 虹のゆきに咲く @kakukamisamaniinori

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