結末

「客に向かってその言い草は何なんだ!」

「あははははははははは! 私は環境を大事にされているあなたが、もっと環境が良くなるためにどうすれば良いかをご提案差し上げているだけですよ」


 ディーラーはさらに一歩踏み出して男に近づいた。なぜか歯ぐきから血が出ている。「私もちょうど死のうとしていたんです。十年付き合ってた彼女に浮気され、業績が上がらないと上司に皆の前で土下座させられたんですよ。今日は当てつけで、上司の前で手首切って死んでやろうと思ってたんです。そんなときにあなたが現れた。わけのわからんこだわりで私を責めてくる。もう死ぬ覚悟がこれで完全に固まりました。これは運命ですね」


 ディーラーはポケットからカッターを取り出してかちかちと刃を出した。


「こんなに利害が一致することってあるんですね」

「止めろ、止めてくれ。申し訳ございませんでした。ガス車で帰るから」


 男は後ろに脚を引いたとき、アスファルトがかかとに引っかかって尻もちをついてしまった。しゃがみこんだディーラーは笑顔で男を捉えている。男は声が震え、手足に力が入らずただ助けを求めることしかできない。


 ディーラーが腕を振ったあと、男の首からは水道管が破裂したように赤い血が噴き出した。ディーラーは男の血しぶきを浴びながら笑顔を崩さず、血にまみれたカッターを手首に押し当て、そのまま引いた。その場は一瞬二酸化炭素量が減りはしたが、すぐに人が囲んで息苦しくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エコな男が起こした事故 佐々井 サイジ @sasaisaiji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ