38.帰ってきた先輩

 ブロックで飲み会があるということで、先輩が帰ってきた。

 飲み会の人数は数十人規模。

 盛り上がる大人数の大人たちにぶるりと私は体を震わせた。

 大人数が怖くて、先輩の場所も声も聞こえない。

 ちびちびとお酒を飲んでいると、やっぱり先輩の姿を追わなくなっている自分がいて、無性に寂しくなった。


 飲み会をほどほどに。

 私は抜け出して、夜風に触れた。


 感情がなくて、悲しくて寂しくて、ぽっかりと穴が空いているみたいだった。

 その穴に気づいて、心の穴の輪郭をなぞった。先輩がいなくなって、仕事をただこなしていた。同じことの繰り返し。カレンダーに丸をつけてみた。でも、丸をつけても、誰の誕生日も祝われなかった。

 私じゃ駄目だったんだ。

 それで、寂しいとか悲しいとか思えるほどに、好きだったんだ。

 そうしたら、つまらないお酒がとびっきり美味しくなった。


 なんだ、ちゃんと好きだったんじゃん。


 既にない好意を、私はとびっきり愛おしくてたまらなくて、しばらく夜風に吹きさらしで少しだけ泣いた。

 結局は過去形の「好意」。

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#私の先輩について 千羽稲穂 @inaho_rice

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