異世界婚活コロシアム!〜元勇者パーティの戦士(38)ですが妖精にはなりたくない至急良い女性を紹介してくれ!〜

茶部義晴

第1話

 魔王の脅威は勇者とその仲間により退けられた。

 世界は平和に満ち、人間の世となるだろう。


 そして俺たち勇者パーティも解散の時を迎えた。

 長い旅だった、誰もが成し遂げられなかった偉業を成し遂げたんだ。


 「みんな本当に今までありがとう。それじゃあ、元気でな」


 始まりの町、俺たちが出会った場所で勇者が最後の挨拶をする。


 「あぁ、お前も元気でやれよ。寂しくなったらいつでも遊びにこい」


 俺も勇者に返す。

 勇者、戦士の俺、愛しの紅一点の賢者、この三人のパーティの絆はこれからも不滅だ。


 「うん、また三人で会いに行くよ」


 「ん?三人?」


 賢者を含めても二人だろ?他に誰かいるのか?


 「あ、そうだまだ言ってなかったな。実は――」


 そういうと勇者は賢者を抱き寄せる。

 ん?え?嫌な予感がする……。


 「俺たちの子供がいるんだ」


 「――は?」


 予感が的中した。

 俺の天使である賢者と勇者ができていただって!?いつのまに?

 こいつ俺が賢者のこと好きだって知っていたよな?

 抜け駆け、いや奪い取りやがったのか!?


 賢者も愛しそうにお腹に手を当てないでくれ!

 というかいつの間に仕込みやがったんだ、俺もずっといただろ?

 これではめちゃくちゃ邪魔者だ。


 「それじゃあ、またな」


 「ちょっ――」


 二人が手を繋いで去って行く、おいこっちはまだ言いたい事いっぱいあるんだが!


 だがそれが言葉に出せず、ただただ口が開いたまま姿が見えなくなるまで見送っていた。


 「クソッ!!」


 見えなくなって初めて言葉に出たのがそれだった。

 凹む、めちゃくちゃ凹む、なんか裏切られた気分で涙が出てきてしまった。


 「俺も結婚したい……」


 旅が終わったら賢者に告白しようと思っていたのに、いきなり躓いた。


 帰ろう、とりあえず帰るぞ……。


 帰り道ショックで色々と考えてしまう。

 俺ももう38歳、良い歳をしたおっさんになりつつある。

 勇者たちと旅にでたのが23の時、それまで女性経験はなく、旅の途中ももちろんうつつを抜かすことはなかった。

 ――つまりは童貞だ。


 巷では童貞のまま30になると魔法使いと呼ばれ、40になると妖精と呼ばれるらしい。


 つまりだ、俺は戦士ながら魔法使いなのだ、しかももうすぐ妖精にもなってしまう。

 こんな筋肉隆々のおっさんの妖精なんて吐き気がする。


 したい!……したい!女性と付き合いたい!

 

 そんな中ふと、ある看板が目に留まる。

 

 「婚活コロシアム?」


 婚活?聞いた事があるぞ、結婚したい人が集まるところだ。


 「なになに?成婚率80%、あなたの理想の相手が見つかります――すごくいいじゃないか!」


 これだ!きっとおかしなテンションになっていたんだろう、俺はその看板に惹かれて扉を叩いた。


 そこには焦茶色の木を基調とした清潔感のある空間が広がった。

 目の前には落ち着いた雰囲気のスタッフが受付に立っている。


 「いらっしゃいませ」


 「初めてなんだが、理想の相手が見つけたい」


 「初来店ですね、ではこちらへどうぞ」


 奥へ通され、二人用の小さなテーブルに案内される。

 

 「こちらを記入ください」


 渡されたのはプロフィールカードというもの。

 ふむ、自分の情報を書き込めばいいらしい。

 名前、性別、年齢、職業、趣味、年収、相手に求めるもの――か。


 名前【ロムレス・フォン・ベルン】、性別【男性】、年齢【38歳】、職業【戦士】、趣味、趣味かぁ……うーん、よし。

 趣味【戦闘】、年収……うーん、いわれてもなぁ、今まで魔王を倒すためだけにお金を気にせずに旅してたしな。王様からは結構めらえたからそれを書けばいいか?

 

 「記入できましたか?」


 悩んでいたらスタッフがやってきた。

 

 「いえ、収入が――」


 事情を説明する。


 「それでしたらその資産でお書きください」


 「わかった」


 年収に横線を引き、資産と修正し【50万ベルク】と記載する。


 「ご、50万ベルク!?」


 スタッフの女性が声をあげる。

 なんだ?何か変なことを書いたか?


 「い、いえ。魔王の討伐報酬って意外と少ないんですね」


 「まあ仲間三人で分配したし、かなり貰ったと思ったが……」


 50万ベルクなんて俺にとっては大金過ぎるぐらいなのだが。


 「すみません、ではお相手に求めるものはなんですか?」


 相手に求めるもの、考えたことなかったな。

 でもそうだな、綺麗で背が俺より小さくて歳も20代で、いつもにこやかで家事が出来て、やさしく小さな事に気がついてくれて、あ、胸も大きいのがいい――。


 「ちょ、ちょっと待ってください」


 「ん?どうした?」


 思いつく事を書いていっていたが手を止められる。

 確かにカッコ内には書ききれなかったが仕方ないだろう。


 「そんなに書いてしまったら誰もがいなくなっちゃいますよ」


 おかしな事を言う。

 そっちが理想の相手が見つかると言ってきたのだろう。


 「まずは一番譲れない事を書いてください」


 ふむ、それなら――【綺麗な人】これでいいだろう。


 「ありがとうございます、これでマッチングするお相手を探してみましょう」


 「頼んだ」


 スタッフがカードを持って立ち去って行く。

 そんなにすぐ相手が見つかるのか?


 「お待たせしました」

 

 しばらくしてまたスタッフが戻ってくる。

 手には紙を何枚か持っている。


 「希望に合いそうな方をお二人持ってまいりました」


 本当にこんなに早く見つかるんだな、凄いの一言だ。


 「では最初のお相手は――」


 持っている紙を見せてくれる。

 

 ふむふむ、名前【R.A】、性別【女性】、年齢【28】、職業【剣士】、趣味【闘い】、年収【100万ベルク】、相手に求めるもの【強い人】


 ふむ、へんな名前だが剣士で闘いもできると。

 しかも顔写真がかなりの美人ときた。

 赤いポニーテールに凛々しい瞳が特徴的でかなり整った顔立ちだ。


 「次はこちら――」


 名前【H.M】、性別【女性】、年齢【26】、職業【魔法使い】、趣味【実験】、年収【500万ベルク】、相手に求めるもの【実験に対する協力】


 こっちも変な名前だ、そして負けず劣らず美人だ。


 「どうでしょう、気になる方はいらっしゃいますか?」


 「どちらもとても魅力的だ」


 甲乙つけ難い。

 いや、そもそも女性に優劣はつけられない。


 「お眼鏡にかかり良かったです。ですが両方というわけにもいかないので、どちらかお選びください」


 両方はダメなのか……まあ、そりゃ一夫一妻なのだから仕方あるまい。


 うーん、どうするか……。

 ただ剣士の方が気は合いそうだ、魔法使いの実験というのも怖い。


 「では剣士のR.Aさん?で頼む」


 「わかりました、ではこれからは入会してからになりますがよろしいですか?」


 「入会?」


 なんだそれは、すぐに会わせてくれるのではないのか?


 「当店ではこういうプランが――」


 長々と説明されるがさっぱりだ。

 だが入会をしないとこの美人に会えないと言うならば入るしかあるまい。


 「一番安いので頼む」


 「では1万ベルグをお願いします」


 「わかった」


 1万ベルグをスタッフに渡す。

 出会にはお金がかなりかかるらしい。


 「ありがとうございます、それでは写真を撮りますね」


 「写真もいるのか?」


 「はい、お相手もお顔を見て決めるという事もあるので。それに顔が事前にわかった方が安心という方が多いです」


 確かに見せてくれた女性2人も顔写真があった。


 「わかった」


 それならどんとカッコよく撮って貰おう。


 「――ではこれで先方に確認してみます。また三日後ご来店ください」


 「そうか」


 今すぐにではないのだな。

 まあ仕方ない、相手にも都合の良い日があるだろう。


 俺はこの後を期待して退店した。


 〜3日後〜


 「いらっしゃいませ」


 「ロムレスだ、よろしく頼む」


 「ロムレス様ですね、ご来店ありがとうございます、こちらでお待ち下さい」


 婚活コロシアムに再来店し、中へ通される。

 

 「ロムレス様お待ちしておりました」


 前のスタッフと同じ人がまた担当してくれるらしい。


 「喜んでください、前に希望した方【ライム・アスレー】さんのOKがでました」


 「ライム?R.Aではないのか?」


 「あ、それはイニシャルと言って――」


 どうやらR.Aと言うのは本名ではないらしい。


 「そうか、とりあえずライムと言うのだな。遂に会えるのか」


 よし、ようやく会えるのだな。


 「はい、2日後の昼になるのですがいかがでしょう」


 「問題ない」


 いつ会うかわからず俺の予定はずっと空白にしておいた。

 決して予定が入らなかったわけではないぞ。


 「ではこちらで待ち合わせでいいでしょうか?」


 コロッセオ前の喫茶店か、いいだろう。


 「うむ、わかった」


 「ではそれでお願いします。ご武運をお祈りします」


 「感謝する」


 よしよしよし、これで俺も結婚できるぞ。

 今からウキウキが止まらない。

 

 〜2日後〜


 遂にこの日がやってきてしまった。

 この2日は全然眠れなかった。

 だが、そんな睡眠不足戦士には全く問題ない。


 待ち合わせの喫茶店で待つ。

 俺には似合わないオシャレという感じの喫茶店だ。


 「ロムレス殿ですか?」


 「ああ、君がライムか」


 目の前に写真で見た美人……とは少し違うような気がするが、似ている美人が来た。

 女剣士の鎧が随分薄いのが気になるが動きやすさを重視しているのだろう。


 「あぁ、今日はよろしく頼む」


 「うむ」


 お互い向き合って座り注文をする。

 さて何を話せば良いものか、とりあえずは自己紹介だろう。


 「――そうか!君があの勇者パーティの戦士か。なら強いのは間違いないな、素晴らしい!」


 「いかにも」


 「旅の話を聞かせてくれ、どんな強敵と戦ったんだ?――」


 思った以上に話が盛り上がる。

 やはり同じ強さを求めてきた者同士ということか、相性は抜群だ。


 「この後コロッセオで一戦交えても良いか?」


 ん?俺とやろうていうのか?


 「うむ、良いぞ」


 中々強気だ、これは腕がなりそうだ。


 コロッセオ、普段はショーなどをするところだが、使われない時には模擬試合等ができる。


 「よし、ではいくぞ!」


 「こい」


 女剣士が木刀を持ち向かってくる。

 中々良い速さ、良い振りだ――だが。

 振り下ろされた木刀をこちらも木刀で軽くいなす。


 「まだまだ!」


 連撃を浴びせてくるが、まだまだ俺にとっては遅い。

 全て防ぎ、鍔で相手を押し返す。


 「さすが、戦士殿」


 「そなたも中々筋がいい。だがまだまだ」


 「何を!」


 突っ込んで勢いのまま会心の一刀を振るライム。

 だがやはりまだまだだ、俺は交わし逆に胴を打った。

 倒れる女剣士ライム、悔しそうにこちらを見ている。

 剣士のプライドを傷つけてしまったか?


 「大丈夫か、良い試合だったぞ」

 

 手を差し伸べる。


 「くっ、殺せ」


 ん?殺せ?


 「何を言っている?」


 「こんか屈辱……私に何をさせる気だ?」


 さっきから何を言っているんだこの人は。

 何もさせる気もない――いや、結婚か?


 「まさかこの私を凌辱するつもりか!?」


 「さっきから何を言っているんだ。落ち着け」


 「私の心までは負けないぞ。あんなことやこんなこと、いやそんなことをされても剣士の誇りにかけて――」


 だめだ、発言がどんどんエスカレートしている。

 童貞には刺激が強過ぎる。


 模擬戦をしている他の人の目もこちらに向かっている。

 早くなんとかせねば。


 「むぐぅ!むぐ――」


 なんとか口を押さえて黙らす。

 美人だが変なやつのようだ。


 落ち着いたライムと外に出る。


 「ハァ……窒息プレイも悪くないな」


 落ち着いてはいなかったようだ。

 美人で話も盛り上がるしとても好みなのだが、先の発言で気になった事がある。


 「ライムは、その……男性経験は多いのか?」


 「いや、多くはないと思うぞ」


 良かった、あまり経験していると童貞の俺は少々不安になる。


 「そうだな、今で1260人と言ったところだ」


 「まあまあ、スタンダード――」


 ではない!なんて多さだ。

 この女剣士で他の女剣士の経験人数の平均が1上がってしまうぞ。


 とんだサノバビ○チだ。

 恐ろしい、流石にこんな女は俺には手に負えん。


 「すまない、俺は純潔が好みだ」


 「貴様、まさか童貞か?」


 この一言でバレてしまった、なぜだ。


 「ああ」


 「そうか、童貞を食らうのもよいが……いや童貞にこっぴどくやられるか――」

 

 背筋がゾワッとする、久しぶりの感覚だ。

 奴の目が俺を獲物のように狙っている。

 こいつは魔王よりもやばい気がする。


 まずい、本能が逃げろと言っている。

 俺は全力で走った。


 「待て!」


 追いかけてくるが、構わず逃げる。


 ――なんとか逃げきれたようだ。

 しかし、初の相手はとんだ食わせ物だった。

 婚活とはかくも厳しいものなのだな。


 合わなければまた違う相手が紹介されるらしい。

 しかし、また危険なやつがきてしまったらどうしようか……。


 〜次の日〜


 また新たな出会いを求め、おれは婚活コロシアムの扉を叩いていた。

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