第53話 三色の彩り

「ハジメさん見て見てー! おこげ!」

「おお、ホントだ。美味そう」


 立ち上る湯気と真っ白な米の中に浮かぶ、香ばしい色。

 おこげは飯盒の醍醐味だ。やる気が出てきたな。


「こっちも出来てます、ミンチ」

「ご苦労様」


 伊那には炊飯を、雲雀にはグリフォンから取れた鷲の部分の肉のミンチを、それぞれ頼んでいた。


「大変だっただろ?」

「いえ、なんてことありません」

「雲雀ちゃん魔法でズルしてたもんねー」

「効率化よ」


 風の刃で肉を斬ったのか。

 それにしては出来上がったミンチ肉にあまり乾燥が見られないけど。

 たぶん魔法を使ったのは最初の大まかな部分だけで、それ以降は手作業だったんだろうな。ミンチを頑張ってくれたし、ご飯は美味そうに炊けてるし、気合い入れて作らないと。


「よし、じゃあ晩飯作りに取りかかろうか」


 まずは脂身を溶かしたフライパンにグリフォンの卵を投入、ハチミツと少量の醤油を混ぜてスクランブルエッグに。

 続いて畑から取ってきたほうれん草を茹でて細かく切り、これもまたハチミツと醤油で和えておく。

 そして最後はミンチ肉の出番。


『スクランブルエッグとほうれん草と鳥のミンチか』

『じゃあアレか』

『三色丼』

「正解」


 これから作るのは鶏そぼろだ。


「醤油とハチミツを入れて」

『今日、そればっかだな』

「美味けりゃいいの。あとは酒があればよかったんだけど」

「私たちまだお酒飲めませーん」

「料理酒の代用になるようなものはありませんね」

『ハジメちゃん酒の一つでも持ってないの?』

「ない。ダンジョンで飲酒するような馬鹿はいないし、そもそも俺、酒飲まないし」

『え?』

『酒飲まないってマジ?』

『煙草は?』

「吸わない。酒、煙草、博打の類いはやらないんだよ、俺」

『人生の半分損してるぞ』

『なにを楽しみに生きてんだ、こいつ』

『ちょっと信じられない』

『人の姿をした別の生き物だろ』

「そんなに責められるべき悪事か?」


 とにかく、酒は諦めるか。


「あ、そういえば」


 ふと思い出して異空間を漁ってみると、目当てのものをつかみ取れた。

 引っ張り出したのは日本酒の一升瓶。


「ちょっと前に知り合いからもらったのが入れっぱなしだったんだ。思い出せてよかった、これで調味料が揃ったぞ」

『いやいやいや』

『待て待て待て』

『それ國落としじゃん!』

『全国の酒飲みが喉から手が出るほど欲しい奴!』

『しかも未開封だぞ、これ!』

「これ、そんなに良い酒だったのか。まぁ、料理酒にするけど」

『死ぬほど勿体ない!』

『やめろおおおおおお』

『おい! お前らギフト送れ! 國落としを料理酒にさせるな!』

「はっはっはっ、毎回そんな都合良く」

『ギフトが贈られました』

「……どうなってんだよ」


 撮影ドローンから光球が放たれ、俺の手の平で具現化する。

 一本の料理酒。リスナーの気迫に押し出されるように手元に届いた。


『ホントに贈れてて笑う』

『俺たちの勝利だ!』

『國落としは守られた』

『ちゃんとこっちのほうを使うんだぞ!』

「わかってる。俺の負けだ。参ったよ」


 改めて國落としではなく正式な料理酒を鍋に加えて沸騰させる。

 頃合いを見てグリフォンの鷲の部分のミンチ肉を加え、アク取りをして火を通す。


「よし、出来た」


 丼はすでに作ってある。飯盒からよそい、白米の上に三色の彩りが並ぶ。

 三色丼の完成だ。


「いただきます!」


 湯気の立つ白米に乗ったそぼろ甘塩っぱさの中にお菓子のように甘い卵が現れ、ほうれん草が食感を運んでくる。食べ慣れた味とはすこし違うけど、これはこれで凄く美味い。


「美味しいー! ご飯最高!」

「白米がこんなに美味しいなんて」

「米だけでも丼一杯行けそうなくらいだな。おこげも美味い」


 やっぱり米だ。米が食事を豊かにしてくれる。

 エルフの里の田園に感謝しないと。



――――――――――


いつもありがとうございます。

新作を書いたので良ければ読んでいただけると嬉しいです。


転生した無能魔術師は破滅の未来を回避したい

https://kakuyomu.jp/works/16818093076583897018

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