第52話 フィルター

「受け取れ」


 魔法によって眼の前にゆっくりと下ろされたのは三つの米俵だった。

 岩塩の採掘法を教えた対価としては十分過ぎる量だ。


「わぁ! こんなにもらえるんだ!」

「米俵一つの重さは六十キログラムだから、三つで百八十キログラムね。凄い」

「いいのか? こんなに」

「これでもまだ等価値とは言えん。足りなくなればまた用意する」

「あんまり太っ腹だと今度は飢餓になるぞ」

「森の恵みを甘く見るな。たった三人が消費する量でエルフが飢餓になるか」

「まぁ、それもそうか」


 田園も広かったし、豊作そうだったし。

 樹海エリアの土は肥沃だって、どこかの偉い誰かが言ってたっけ。そう言えば作った畑に植えた野菜たちも、やけに成長が早かったな。


「じゃあ、ありがたく貰っていくよ」


 米俵の下に異空間を開いて落とす。


「やったやった! おにぎりとか卵かけご飯とか食べたーい!」

「おにぎりはともかく、卵かけご飯はやめといたほうがいいわよ。スーパーで売ってる清潔な鶏卵じゃないんだから」

「腹壊すな、確実に」

「がーん!」


 ともかく、このダンジョンでソウルフードを手に入れた。


§


「さて、じゃあ作るか。ドライヤー」

『そう言えばそれが目的の一つだったな』

『エルフと田んぼのコラボが印象的すぎて忘れてたわ』

『グリフォンの風切り羽だっけ?』

「そ。団扇みたいに重ねるのも考えたけど、それだと熱風冷風の切り替えが難しいんだよな」


 風だけなら団扇でいいんだけど。


「とりあえずドライヤーの外観だけ作ってみるか」


 このあたりを開墾した際に有り余っている木材を使用してドライヤーの側を作成。中は空洞で、これから幾らでも詰め込める。


『おお、それっぽい』

『外見は完全にドライヤー』

『木製のドライヤーって斬新だな。探せばありそうだけど』

「うーん、やっぱりフィルターをつけるのが手っ取り早いか」


 そうなると当然だけどこのドライヤーから風を吹かせなきゃいけないな。


「埋め込み……風切り羽の手入れが必要だし、取り外しできたほうがいいな。いや、待てよ」


 異空間を開いて、中から魔石を取り出して魔法をかける。一度二つに割って成形、長方形にして風切り羽を挟んで閉じ込めた。


「カートリッジだ」


 この状態なら手入れは入らないし長持ちもする。風切り羽の効果は魔石を介して十分に発揮されるはずだ。

 これをドライヤーの空洞内部にセット出来るように作り直す。

 試しに柄を持って魔力を流してみると、反応した風切り羽が風を巻き起こし、後部から空気を吸い上げ、前部から勢いよく吐き出した。


『おお、ドライヤーになった』

『すげーシンプルな作り』

『これ羽がないタイプの扇風機じゃね?』

『爆速で髪が乾きそう』

『あとはフィルターか』

「フィルターは後ろにつけるか」


 ファイア・ドレイクの鱗と氷晶石。

 この二つに魔法をかけて変形させ、細かい網目状に。そこに木材の縁を取り付ければフィルターの完成だ。


 「熱フィルターと冷フィルターだな。スイッチオン」


 後部に取り付けた熱フィルターを通して空気が吸い込まれ、吐き出される風は熱を持つ。

 温度も十分。

 手に当てると焼け付くように感じるほどだ。

 冷フィルターも同様に、冷たい風が流れてきた。


「いいね、完成だ」

『これ冷フィルターいる?』

「ないよりあるほうがいいだろ?」


 風切り羽の能力が薄れてきたら、魔石から取り出して取り替えれば大丈夫。

 使用者の魔力で動くから魔石は消費されない。


「ハジメさーん! 準備できましたよー! ご飯にしましょー!」

「ああ、今行くよ」


 一度、出来上がったドライヤーを異空間に仕舞い、雲雀と伊那の元へ。

 飯の時間だ。





 

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