第51話 対処法

「これがゴーレムモドキか」


 探索隊の面々は、出来上がったゴーレムモドキ――今は本当のゴーレムだけど、とにかくゴーレムモドキを注意深く見つめていた。

 彼らエルフにとっては見られない所見の魔物のはず。対峙したことのない敵を前に、握り締めた弓に力が入る様が見て取れた。


「この岩の巨躯に我らの弓が通るかどうか」

「通ったとして倒せるのか? どうなれば倒したことになる」

「粉々にすればいい。先程見ただろう。細かい破片が寄り集まっていた」

「そこまで砕けばよいか……あの巨躯をとなると骨だな」


 と、エルフたちが考察する。

 ダンジョンが発見された当時も、先人たちはこんな風に魔物の対策を練っていたのかも知れない。

 歴史を見ているような気分になりつつ、そろそろ答え合わせの時間だ。 


「ゴーレムモドキは」


 と、発してから話を切り出す。


「ゴーレムモドキは非常に優れた再生能力を有しています。その上、頑丈で基本的に倒す方法は一つだけなんです」

「粉々にする、のではないのだな。その口ぶりだと」

「ええ、ゴーレムモドキには必ず心臓、コアがあります。それを破壊すれば活動を停止します。ただコアの位置は個体によって違う」

「なるほど……コアの位置を特定する方法はあるのか?」

「それは実戦で。雲雀、伊那」

「は、はい!」

「はーい!」


 二人はすでに自分たちの役割を理解していて、直ぐに魔法の発動動作に入る。

 それを確認してからゴーレムモドキに戦闘司令を下し、本物と変わらない緩慢な動きで二人に襲い掛かった。


「アトモスフィア!」

「イルミネイト!」


 対する二人も魔法を唱え、風と雷がゴーレムモドキの身を削る。飛び散った破片には、更に魔法をかけて即座に修復。

 ゴーレムモドキの再生能力を再現した。


「動きは遅く脅威ではないな」

「だが予想以上に硬い。そして再生能力も思った以上だ」

「本当にこれだけ早く再生するのか?」

「でなければこうして見せはすまい」

「単体なら負けはないが、複数ならどうする? それにコアの位置はどう割り出す」

「いや、待て」


 ゴーレムモドキの岩腕から繰り出される殴打を躱し、雲雀の風が傷を刻み、伊那の稲妻が打ち砕く。

 その破片を再び繋ぎ合わせる。


「再生に規則性がある」

「言われてみれば、たしかに」

「体の中心に向かって引き寄せられている? いや、やや左か」

「あの位置がコアならば……」


 エルフの探索隊のうちの一人が弓に矢を番える。込められた魔力が螺旋を描き、鏃の鋭さを跳ね上げる。

 解き放たれた一矢は狂いなく目標を捉え、ゴーレムモドキの中に配置したコア――魔石を見事に射抜いた。


「わ! 一撃だ」

「流石はエルフね。対処法が分かれば、こんなに簡単に」


 崩れ落ちるゴーレムモドキ。


『高い魔石が』

『ゴーレムモドキ一体おいくら万円?』

『鉱石の価値を含めたら云十万円』

『なお、ダンジョンの中では無価値』

『たけー木偶の坊だこと』

『魔石足りるの?』

「砕けたのを元に戻せるから平気」


 ゴーレムモドキを動かした分だけ、体積が消費されるから永遠には無理だけど。

 体が大きい分、燃費も悪い。

 拠点の防衛に何体か配置しようかと思ったけど、それには潤沢な魔石が必要だ。

 今はいいけど、引っ越し先のことを考えると魔石の採掘もしておかないとかもな。


「対処法は理解した。次は我らと頼む」

「ええ、もちろん」


 それからゴーレムモドキは何度もコアを射抜かれる。そのたびにコメントに人権団体やら愛護団体やらが湧いたがすべて無視。

 これも米を手に入れるためだ。

 ゴーレムモドキには犠牲になってもらう。 

 

 

 

 



 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る