第50話 完全再現
「人間の手を借りるなど!」
「だが、確実な情報だ。人間は我らよりダンジョンに詳しい」
「しかし……」
「なによりキリル殿と、あのリリシアが信をおいている。まず間違いあるまい。それとも他に確実な案でもあるのか?」
「……いえ」
若いエルフの兵士は、壮年のエルフの兵士に言葉を返せなかった。不本意、そう顔に書いてあるのが読める。
まぁ、彼らはエルフなのだから、見た目よりはずっと歳を重ねているんだろうけど。
「という訳だ。すまない、待たせたな」
「大丈夫ですよ、短い寿命でも暇を持て余すことはあります」
長寿のエルフからしたら、人の一生なんてあっという間なんだろうな。
だからか、彼らは人間との時間感覚の差を必要以上に気にするきらいがある。
とりわけ待たせることに敏感だ。
エルフの時間感覚で待ちぼうけを食らったら、たしかに大変だけど。
「じゃあ、始めましょうか」
このエルフの里を支える樹木の一本、その虚の中。中央に配置された机を挟んで向かい側に立っているのは、岩石探しのために他のエリアへと向かう予定の探索隊の面々。
彼らは興味深そうだったり、訝しげだったりの表情をしながら整列している。
人間が珍しいみたいだ。
そう言えばキノコ泥棒の彼はどうしてるだろう? まだ菌床に服役しているはずだけど。
まぁ、いいか。
「まず岩塩の採掘場所ですが、ここです」
机の年輪を隠すように広げた地図の上で指先を滑らせ、山岳エリアの上で止める。
俺達に取っては常識的なことでも、樹海エリアから、里の周辺から、外に出ないエルフに取っては未知の情報だ。
本来、必要ですらないのだから、聞いていたとしても記憶や記録には残らないんだろう。
「ターゲットは――」
「ターゲット?」
「ええ、岩塩は魔物から採掘します」
探索隊に広がる困惑は、しようがないことだった。俺だって説明されなければ理解は出来ない。
なので、ゴーレムモドキの話をした。
「なるほど、岩の魔物か」
「森の外にはそんなものが……」
「そのゴーレムモドキはどの程度の強さなんだ?」
「討伐難易度は中の下と言ったところですね。ただゴーレムモドキは非常に硬く、倒すには突破力が必要になります」
隣で話を聞いていた雲雀と伊那が深く頷いている様子がちらりと目に入った。
二人とも苦労してたもんな。
「硬い、か」
「我々の魔法で倒せるでしょうか?」
「人間に倒せるのだ。我らに倒せぬ道理はない」
「驕るな。今は教えを請う立場だ」
「なんにせよ、実際に試してみる他あるまい」
エルフの使う魔法ならゴーレムモドキを貫けるとは思うけど、ぶっつけ本番になるのはやや不安が残るか。
ダンジョンじゃ何が起こるか、本当にわからないし。
そうだ。
「それなら俺に考えがあります」
§
エルフの里から螺旋を描く階段を下り、俺たちは広く開けた空間に場所を移した。
そこで異空間を開き、取り出すのはゴーレムモドキから取り出した鉱石の数々だ。
「あー! 私、わかっちゃったかも!」
「私も。なるほど、たしかにこれなら」
二人は俺の意図がもうわかってるみたいだ。
「これで何をするんだ?」
「作るんです。ゴーレムモドキを」
鉱石たちに魔法をかける。
「クラフト」
連結した鉱石たちが作り上げるのは、無骨で屈強な岩の肉体。動力源としてコアの変わりに魔石を組み込むことで、土塊のゴーレムと同様に命令を下すことが出来る。
硬度も頑丈さも完全再現だ。
『まーたゴーレムちゃんがこき使われてる』
『これで本当の仲間になれたね』
『魂抜かれて体だけ好き勝手されるとか冷静に考えるとヤバイな』
『ゴーレムちゃんの受難は続く』
とにかく、これで練習が出来る。
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