第5話 パートナーシップ

「今の法律だと相続もできないから、ルカにカレシいるんだったらデメリットしかないよ。それでもいい?」


 イオリに続いて、小林さんもわたしに色々と説明をしてくれた。法律的にちゃんとしたカップルではないことや、ただの友達の延長でしかないこと。


「そんなに思ってくれているなら、いいよ」


「いいの?」


「うん」


 わたしはノンケだが、特定のパートナーが居るわけでもないし。


「一つだけ、教えてほしいかな。なんで、わたしなの?」


「あたしがここまで自己投資をちゃんとやろうって思えた理由は、ルカ、あんたのおかげなんだよね」


 イオリにとって、わたしは「好きなことを思う存分やっている人」に見えたという。


「遊びに来たときさ、部屋にマンガ賞の落選の通知とかがどっさりあったの、目に入っちゃったんだよ。それも何通もさ」


「お恥ずかしい」


「恥ずかしいわけないじゃん! あんたは、がんばってるんだよ。好きなことをして、めげずにやってきたじゃん。それは恥ずかしくないって!」


 破り捨てたボツ原稿の量を見て、わたしの本気度を知ったらしい。


「わたしからしたら、あんたは好きに生きている人だなって思っていたけど?」


 どれだけ努力しようとも、ボツはボツである。


「違うし。ルカを見ていたら、むしろあたしの方が恥ずかしくなってきてさ。いろんなことから逃げてきただけなんだなって、思い知らされて」


 彼女はわたしを見て、自分に投資していこうって考えたという。


 そこまで、わたしのことを思ってくれていたのか。


「あんたは、マンガをやっていこう。今だったらネットで四コマとかもウケる時代だし」


 ネットでバズるコツなどを、イオリは教えてくれるという。


「あたしはあたしで、法改正してもらえるかどうか、色々調べてみるよ」


「そうだね。応援してくれてありがとう」


「ルカには、助けてもらったもん。こっちこそ、ありがたいよ」



 

 その後、わたしのマンガがSNSでちょっとだけウケた。ボツ原稿のタイトルを、ほんの少し変えただけで。内容は、まったく変えていない。こんな些細なことで、バズって起きるんだと驚いたものだ。


 おかげで、さる出版社の編集部の目に入った。


 数年後、わたしは仕事をやめて、マンガの本業で食べられるように。


 貯金と投資資産があったおかげで、それなりに生活はできている。イオリからの援助を、一切受けなくても。


「ルカ。結婚したんだから、サポートするのに」


「しているから。ホントは、マンガ一本で生活できればいいんだけど」


「あたしは、満足しているよ」


 わたしの後ろから、イオリが肩を抱きしめてきた。


「それ、今度の新作のタイトル?」


「うん。わたしたちの投資生活を、エッセイ風マンガにしたら、って編集さんがアドバイスしてくれてね」


「おおっ。いいじゃーん」



 わたしは、作業中の原稿を手に取る。


 


『最強の投資先、教えます』



(おしまい)

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激務に耐えかねたOLが、元同僚の手引で投資を学んでリタイアを目指す。 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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