第3話

 十年の歳月が過ぎました。

 国王様が亡くなり、皇太子が新しい国王様になったのです。その者は、廃嫡された元平民でした。

 国は大きく揺れました。

 元第二王女と元第三王子派は、手を組んで新国王様に対抗して来ました。

 また、他国に追放された元第二王子が、他国の軍を従えて進軍して来ました。


 それでも、新国王様は慌てません。問題を一つ一つ片づけて、三年もすれば、その国は平穏を取り戻したのです。

 『国宝の恩恵』……。その意味を知っていたのです。いえ、理解したと言った方が正しいでしょう。



 ──コンコン


「開いていますよ。ようこそいらっしゃいました」


 一人の老年の男性が入って来ました。杖をついています。


「儂を覚えておいでかな? もう、何年も前に一度来たきりなのだが……」


「はい! お客様のお顔は覚えていますよ。『失われた国宝』を求めた方ですよね」


 二人が笑い合いました。


「その節は、本当に世話になった。おかげでこの国も安定を取り戻し、発展していくことだろう」


「私も、その『恩恵』を受けている一人です。それにしても凄い物ですね。『国宝の恩恵』というのは。新国王様が出す政策が、全て当たり、隣国からは、『失策の無い国』とまで呼ばれていますよ」


 お客様と呼ばれた人物は、これ以上ないほどの笑顔で答えました。


「まさか、『失われた国宝』があのような物だったとはな……。だが、国政においてあれほど優位な物も無いことは理解出来た。それは私だけではない。大臣達も皆納得している。元王子や元王女を支持する臣下はいなくなったよ」


「占いというのはですね。未来を変えることが出来ます。人々を幸せに導くためのほんのちょっとした力でしかありませんけど。予知や予見は、占いと違い未来を変えられません。悪い未来を知ることが出来ても避けられないのです」


「儂も、その後『占い』について色々と調べてみた。そなたの占いは何と言う種類なのだ?」


 店の主人は、笑顔で答えます。


「私の占いは、易学と呼ばれます。私は易者と呼ばれています。卜聖とも。過去を知り、千里を見渡し、未来を変えることを生業としております。なのでお客様がこの店に来られたことも、私の話を聞いてくださったことも、ご自身で切り開いた運命ということになります」


 お客様と呼ばれた人物は、笑い出しました。


「世話になった。とても助かったよ。それと一応聞いておくが、王家に仕える気はないのだよな?」


 店の主人は、満面の笑みです。だけど、首を横に振りました。


「またのおこしををお待ちしております」



 お客様と呼ばれた人物が、一礼して店を出ました。

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失われた国宝と占い屋 信仙夜祭 @tomi1070

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