15_ エピローグ Ⅲ




「女は犯せ! 宝は奪え! 情けは無用!

 ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


「イヤァァァァッ!」


「誰かっ、誰かァァァァァァァッ、ごフッ!?」



 数多の悲鳴が空をつんざき、数多の男たちが喜び勇んで欲望に耽溺している。


 黄金歴百一年。


 その日、とある村落では、野盗の群れがひとつのコミュニティを、思う様に蹂躙し尽くしていた。

 血と惨劇が巻き上がり、下卑た野獣たちがゲラゲラと笑いながら女子どもを犯す。

 抵抗しようと立ち向かってきた男たちは、揃って首と胴が泣き別れしあの世行き。

 未だ日も明るいうちだと言うのに、野盗どもは何を躊躇うことがあるかと暴れている。

 その様子を、野盗たちの頭目は満足げな笑みで見渡していた。



「へへっ、どうです?」


「どう、とは?」


「我々の力は、大したものでしょう?

 この程度の村落なら、ものの半刻でこの通りでさぁ」


「たしかに、ずいぶん手馴れているな」


「へへっ! そりゃまぁ、我々はここいらじゃ最も名の知れた傭兵団ですからね。

 黄金髑髏の亡霊団といやぁ、あの伝説の終末劇を生き残った旧七神國でさえ、泣いて恐れる立派な軍隊!

 今じゃその数、八千を超える兵力ですからねぇ……!」


「どいつもこいつも、野盗あがりの連中がよくまとまっているな」


「へへっ、へ……すべては、あの黄金の女神のおかげさまでさぁ」


「……? どういう意味だ?」


「百年前、あの女神が落としたっつぅ、でっけ〜黄金がありますでしょう?

 我々はアレが、みーんな大好きでしてねぇ?」


「なんだ。くだらん。中毒者か、オマエたち」


「へっへへっへっ!

 ……まぁ、口さがない言い方をすればその通りです。

 我々は、あの黄金が欲しくて欲しくて、言うなりゃ共通の目的の元に集った同志ってワケですよ」


「あんなものがあったところで、腹が膨れるワケでもなかろうに」


「夢が膨れまさぁ! あの黄金はいい……! 触っていると、とにかく気分が良くなる!」


「だからと言って、各国の蔵を襲うのはやり過ぎだと思うがな」


「バカ言っちゃあいけません! アイツらとんでもねー悪人だッ!

 黄金が危険だからとか言って封印するなんざ言ってますがね、ありゃぜーんぶテメェらで独り占めしたいがための嘘に決まってるんでさァ……!」


「……フン。ま、オマエがそう思うならそうなんだろ」


「ええ! さすがは神さん、話が分かってますねぇ!」



 黄金髑髏の亡霊団。

 その団長を務めるという男は、完全にイカれた目つきでゲヒャゲヒャと笑った。

 神さん。

 すなわち、『神』と呼ばれたもうひとりは、そんな狂人を呆れた眼差しで見下ろしている。

 全身を真っ黒なローブで覆い、顔すらもフードで隠した姿。

 全体のシルエットはなだらかなれど、線の細さと丸みを帯びた輪郭は隠しきれない。

 服の上からでも分かる女の肉体は、周囲に蠢く野盗然とした男どもと違って、明らかに異彩を放つ存在だった。


 女神は言う。



「それで? この村落を襲った後は、どこを狙うつもりなんだっけ?」


「へっへへっへっ! よくぞ聞いてくれました!

 我々が次に目指すは、美の國ッ!

 かつて黄金の女神を擁しながら、みすみす見放されたっつー愚かな亜人どもの國を狙いますッ!」


「──へぇ。ちなみに理由は?」


「黄金!」


「彼の女神はもう、とっくにあの國にはいないと聞いているが」


「それでも! あの國には女神がいやした!

 だってんなら、きっと、たんまりと、隠し持ってるに違ぇねぇんだ!」


「……凄まじいな、オマエ」



 頭目の男はキラキラとした口調で黄金への執着を叫ぶ。

 黒衣の女神は、「こりゃたしかに甘い見積もりだったわ」と呟いた。



「ん? なにか言いましたんで?」


「何でもない。それより、契約内容の再確認だ。

 オマエたちは神の祝福が欲しいんだよな。選ぶのは本当に俺でいいのか?」


「律儀な神さんですねぇ、ええっ、アンタが我々の主神で結構ッ!

 アンタが持つ衝撃波の権能は、とっっても魅力的だ!

 邪魔なもんは全部吹き飛ばせるんだからなァ! 厳重な蔵の鍵も、ちょちょいのちょいよ!

 黄金髑髏の亡霊団は、神さん、アンタを戴くことで更なる夢を叶えられますぜッ!」


「そうか。なら、いいんだ。オマエたちの力は見せてもらったからな。契約通り、全員に加護をくれてやる」


「おっほ! こりゃありがてえ……!」



 パチン、と音が鳴った。

 女神は村落に背を向けると、あとは好きにしろと傭兵団の天幕へと戻っていく。

 衝撃波の祝福を授かったゴロツキたちは、さっそく新たなる暴力に酔いしれ始め、調子よく女神への賛歌を歌い出す。

 頭目の男もまた、「おりゃあッ!」と雄叫びをあげて蹂躙の列に加わった。


 彼らにとって、世界はひどく単純なものだった。














 その翌月、満月の夜。



「なぁァンんでェェエエ工ッ!?」


「加護がッ! 加護が使えねぇよぉぉ!」


「どうして!? どうして美の國の連中がオレらの襲撃を知ってるんだァァァァ──!?」


「神さんッ! 神さんッ! アンタッ、我々を裏切りましたねえェェエエ工ェェエエ工ェェエッ!!??」



 黄金髑髏の亡霊団は、あらかじめ襲撃を察知していた美の國の防衛網に捕らわれ、集中砲火による全滅を喫した。

 彼らが最後に目にしたのは、耳の長い美貌の亜人、半人半馬、人型の蔦植物、その他さまざまな亜人種。

 その中心に立つ、透き通るような輝きを持った剣握る女帝。

 黒衣の女神は、黒衣を脱ぎ捨て、とともにその傍に寄り添う。


 ああ、その姿こそ!




 ──月光に濡れる金砂のごとき長髪。


 ──見るものを惑わさずにはいられない黄金瞳。


 ──男女の垣根なく劣情を刺激するふしだらな肢体。


 ──豊満な女性美をこれでもかと湛えたカイブツ。


 ──人間の欲望、富による堕落を司り、退廃と眩惑、裏切りによってのみ祝福を授ける邪神……!





「アウレア様? 此度もまた、実に華麗な裏切りでしたね?」


「ルキア。キミの手並みに比べれば、俺の手腕は児戯そのものさ。ああ、会いたかった!」


「私もです!」




 世界を騙した美の國の真実。

 少女を愛した邪神と、邪神を愛した少女の物語。

 一人と一柱が選んだ共存の道。


 これにて、終演。


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邪神系TS人外黄金美女が古代神話世界でエルフ帝国を築くまで 所羅門ヒトリモン @SoloHitoMari

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