ある公爵令嬢の婚約破棄騒動

@mihuehinoto

第1話 婚約破棄、あたりまえでは?

たった一人でダンスホールに入った私に、中に居た同学年の貴族子女たちの視線が集中する。

そして顔を上げた私の視線の先には、蔑みを隠そうともせず、婚約者である私とは別の可愛らしい少女をエスコートし、先にこの場へと入場していた第一王子の姿があった。


その彼と彼女の周りには、この国の騎士団長の息子や宰相の息子、魔導士団長の息子や大商人の息子などこの国でも高い地位の者たちの子息が取り巻いている。

彼らはこれから私のことを、彼らがいう”悪逆非道の数々”でこの衆目の中で断罪する気でいるのだろう。


そう、私は彼らにとっての「悪役令嬢」なのだ。

あぁ、なんて喜劇だろう。

そんなことを考えながらホールの中央へと歩み寄り、ほどほどの距離で足を止めた私に対し、王子が不快そうに声をかけてくる。


「ふん、よくもまぁおめおめとこの場に姿を現すことができたものだな、公爵令嬢。私はそなたに対し――」


「話をぶった切ってすみませんが第一王子、あなたに話すことがあります」


そんな彼の話を思いっきりぶった切って、彼が私を指さそうとする前に逆に指をつきつける。


「きさっ・・・」


話を遮られたうえ、高位貴族の令嬢としても重々なマナー違反の私の行動に怒りの表情で王子が何かを言いかけるが、そんなものは無視だ。


「――王子、私は貴方との婚約を解消させていただきます」


「「「「「「・・・・・・は?」」」」」」


きっぱりはっきりとダンスホール全体に通る声量でそう言い切った私のセリフに、王子のみならず王子が傍に寄せている少女、さらにはその取り巻きたちまでが全員、間抜け面を晒し、( ゚д゚)ポカーンと口を開けながら疑問の声を発した。

思わず爆笑してしまいそうになるが、表情筋を全力で酷使してそれに耐える!


「この婚約解消については、すでに私の両親や陛下や妃殿下にも了承を得ています。お二方には先ほどまで留意を願われ続けていましたが、本日の王子、貴方の行いをもってそれも諦めてくださいましたので☆」


「な、なななな・・・・・・」


「あ、それと同時に陛下から伝言です。『第一王子、おまえ、廃嫡するから』とのことです」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!」


「ていうかですね、婚約者が居ながら他の女性のエスコートはするわ、普段から私との交流もしない、城下に抜け出すだけならともかく王子としての職務をほったらかして数日以上、街の外まで出てってしまうような行為を普通にできてて、なんで王位を継げると思ってたんですか?」


「か、彼女のエスコートをしたのは、彼女がエスコートしてくれる相手が居ないと困っていたから私の優しさから申し出たもので……」


あ、いまの言い訳の瞬間、彼女の周りにいた騎士団長の子息たち高位子弟たちがギュルン!と音をたてそうな速さで少女のことを凝視する。


「そ、それにたしかにおまえとの交流はしていなかったが……そ、それは関係ないだろう!それに街の外に行っていたのも彼女や騎士団長の子息たちと困ってる村を救いにいったり火山に住まう悪竜を退治しに行ったりしていただけで……」


うんうん、と彼と彼女の取り巻きたちも頷く。


「それ、貴方たちだけで『やりに行けた』こと自体をおかしいと思わなかったんですか?」


「は?」


「なんで『第一王子』や高位貴族の子弟たち、大商人の息子、とか”だけ”で行けたってことをなんで疑問にも思わなかったんですか?って聞いてるんです」


『だけ』という部分を特に強調した、私のこの質問に第一王子だけでなく周囲の面々もまたもや間抜け面を晒す。あ、むしろ私たちを遠巻きに取り巻いてこの話を聞いてる子らの方が思い当たったようで「うわぁ……」って顔を歪めてるわ。


「えっと、ですね……あ、説明の前に騎士団長の子息、宰相の子息、魔導士団長の子息、貴方たちのご両親ズからも伝言を預かってますので伝えさせていただきますね。


 『おまえら、廃嫡の上、家から追い出すから。今後は自分の力で生きろ』


だそうです」


「「「はぁぁぁぁ?!?!???!」」」


騎士団長の子息たち、全員が私の言葉に絶叫した上に目が飛び出そうなほどぎょろりと凝視してきて、そのなんだ、キモい。


「あ、ちなみにこれ、各自のご家庭から貴方たちへと渡すよう預かった封書です」


そう言って後ろ手に持っていた各ご家庭からの封書を、遠巻きに見ていたホールのボーイをしている下級生の少年を手招きして呼んで、彼らそれぞれへと渡してもらう。不幸な役回りをさせてしまったし、あとで彼にはチップをたっぷり渡しておこう。それにまだあるし。


「「「な、なななな・・・・・・」」」


手紙の内容が私の言葉通りだった上、封書の刻印が各家の紋章であることから疑いようもないせいで、彼らが壊れたおもちゃのようにがくがくと震えだす。あ、宰相の子息、魂が口から抜け出しそう。



「あと、大商人の息子さん。貴方は貴族でないので廃嫡とかはありませんが、貴方のお父様からの伝言は『学園の入学金並びに各種学費全額耳をそろえて1か月以内に払え。払えなければ奴隷として売り飛ばすから。それとその際にうちの商会の名前やコネを使うの禁止な』だそうです。なお、これが貴方宛てのその請求書です」


はい、とドレスの胸元から書類を取り出してまたもさっきの下級生に大商人の子息へと渡してもらう。ぷるぷると(ほかのだれか変わってよぉぉぉ!)と思ってるのが見て取れる涙目になってるの、あら、可愛い。


「う、嘘だ嘘だ嘘だ・・・・・・・あぁぁぁぁ、でもこれたしかに父さんが商会の重要指令のときだけに使う偽造防止付きのついてる一級紙・・・商会の印もある・・・・・・・・」


否定したいが明らかに偽造不可なことがわかり、事実だと理解したことで絶望した顔になる大商人子息。うん、この学園は王立とはいえ貴族子女や大商人子女が通うせいで設備費やらなんやらで入学金や一年あたりの学費が軽く一般民衆の年収数年分くらいしかねないからね。それを1か月で払えっていくら彼に商才や貯蓄があったところでほぼ不可能だろう。しかも彼の実家の商会のコネ禁止ってなったら、それだけで取引相手を探すのにも困るんじゃないかな。


「な、なんで・・・」


自分の周りを取り巻く、ついさっきまでこの国でもトップの男性陣の凋落に蒼褪め、そう呟く可愛らしい少女ちゃんの疑問に答えてあげよう!


「え、全部あなたと彼らの学園生活のせいだけど?」


「えっ?」


「いや、だって第一王子以外の彼ら全員が全員、高位貴族だの大商人の息子だのだって立場なのに、いい年して婚約者持ちでないフリーだったって時点でまずは察してほしいんだけど……その時点で親がそもそも期待してなかった、ってなんで気づかないの?」


「えっ」


「あれだけ顔が良くて親の地位があるなら、そもそも普通は学園に入れる前に婚約者が親によって作られてて当たり前でしょ? そりゃあご家庭によっては恋愛主義なとこもあるかもだけど、変な相手に入れ込まれても大変だから側室とかにするのを許可するならともかく、正室としての婚約者は政略的にも幼少期から面合わせさせたりしながら作らせるものよ?」


これに、うんうんと頷く遠巻きにしてる同級生たち。


「それが全員そろって一人の少女に恋してるとか、そんなの貴女はだれと結びついても幸せになれるでしょうけど、貴女に選ばれなかった家からしてみたら、『うちの子は他家に好いた女を取られるような程度」ってなって、面子が丸つぶれになるじゃない」


これ、面子が大事な貴族、それも大貴族にとって命取りになりかねないんだよねぇ。


「しかも、それぞれが軍事・政治・魔法・経済の最上位よ? 派閥問題にもなりかねないし、さらに王家も関係しちゃってるから下手にこじれたら内乱問題にも発展しかねないし……恋愛感情なだけにいつまでも後を引きずりやすいし。で、そんな火種抱えたまま各家が後継者に置くのどうか?ってなるの当たり前でしょ」


「・・・・・・・」


「で、しかも王子もそうだけど、彼ら全員が貴女とあっさりと街の外まで行って貴女たちだけで冒険だのなんだのしてて、それに『あれ?おかしいな??』って疑問すら抱かなかったでしょ?」


「え、えっと、それはどういう・・・」


「平民出の貴女はともかく、彼らは『高位貴族や大商人の子息』なのよ?」


「「「「「「???」」」」」」」


どうやらここまで言っても王子たちも彼女もまだわからないらしい。


「彼女はともかく貴方たち……ここまで言って、冒険のときに貴方たちの傍に護衛が居なかったことをまだ不思議に思ってないの?」


「「「「あっ!!!」」」」


「「???」」


王子と少女はまだわかってないようだが、騎士団長の子息たちの方はやっと気がついたようね。


「冒険ということしてたのに」


「賊に襲われたりしてたのに」


「魔物と戦ったりしてたのに」


「戦いや罠や事故で命を落とす危険があったのに」


「「「「――放置されてたってことか!!!!」」」」


「「あっ!!」」


騎士団長の子息たちの絶叫のような唱和に、王子と少女が理解の声をあげる。


「はい、大正解~」


ぱちぱちぱち、と拍手を送る。


「正直、その時点で貴方たち全員が家族から見捨てるかどうか試験されてたのよ。せめて気づいてたり王子を止めたりしてたら廃嫡までは行かなかったかもしれないけど、むしろ逆に一緒になって出かけてって、しかも護衛がいないことに疑問も抱いていなかったでしょ? 特に宰相と騎士団長と魔導士団長なんかはその時点で『あぁ、こりゃ跡継ぎにはできんわ』って判断したそうよ。護衛が居ないで外出できてるってことは、その時点で『攫われようが殺されようが四肢欠損の跡継ぎ不可の状態になろうがどうでもいい』って周囲から見られかけてるってことに、王子含め貴方たち自身が気づけてるかどうかってことにね。でも、貴方たちのだれ一人としてそのことに気づかずそういった行動を何度も、ずっとし続けてたって訳で・・・・・・」


「あ、あぁぁぁぁ・・・・・・」


「で、大商人の子息くんの方は、その彼らとの冒険の際に得た財宝とか、お父様に報告したりせずガメちゃってたでしょ。商会に身内料金で彼らの冒険に必要なもの手配したりしておきながら」


「で、でも、それはぼくらがぼくらの冒険で得たものであって・・・」


「そういう冒険をするための道具などの手配や入手に商会を利用していたのに? しかもそういった行動の結果、騎士団長や宰相、魔導士団長に継嗣を切り捨てさせる結果を招いちゃった、っていうのが重要なのよ、この話。これ、つまりこの国の軍事・政治・魔法の各派閥の最上位の家に害を与えておいて、しかも商会を利用したくせに商会に実入り一切なにもなしで済ませてそのまま、って状況って客観的に見ると?」


「・・・・・・そ、そのままだと、商会が各家に大損害を与える工作をしたようにもとれます・・・」


「そういうことよ。

 しかも貴方の家、大商会なせいで隣国とも交流があって商売してるでしょ?

 それってつまり・・・・・・」


あ、私が言いたいことに気づいたみたい。大商人の子息くん、顔から血の気が引いて真っ白になってきてる。


「り、隣国からこの国への工作活動を請け負った、と受け取られかねない・・・」


「そういうことね。さっきも言った貴族の面子とも合わせて考えると、即、商会ごと関係者全員を拘束、拷問付きの尋問、果てには処刑って状況もありえたくらいよ。むしろ貴方がほかの彼らと一緒に彼女に単に惚れ込んでるようだからってことでどうにか商会自体は見逃されたようなものでしかないの。で、だから商会としてもあなたのお父様としてもあなたを商会から切り離すことで身の潔白を示してるってのも、貴方についてのその決定の理由ね」


「・・・・・・・・・」


絶望に染まりながらも、理解をした様子の大商人の子息。自分の家が関わってる様子なだけに、騎士団長や宰相や魔法師団長の子息たちは、そんな彼に声をかけられない様子でいる。


「し、しかし、彼らは私をいさめられなかったということでという、その立場上の理由からの処分であるのはもはや仕方ないとしても、なぜそのことで私が廃嫡されねばならんのだっ!」


周りの絶望オーラをどうにか払拭しようとしてか、声を荒げて叫ぶ第一王子。

でも、他のやつらはしょーがない、とか言っちゃったせいで、騎士団長の子息たちが若干キレそうになってたぞ。


「え、だって・・・国内の上位家にこれだけ不和になりかねないことをしておいて、王家だけがその主要関係者を自分とこだけそのまま据え置きにするわけがないでしょう?」


「くっ・・・・・・だ、だがっ」


「そもそも最初にも言いましたが、政務しごとをほっぽりだして女と遊びに行くわ勝手に冒険しに行くわとか、そんなヤツに為政者としての資格が認定されるわけがないでしょ。優先順位を判断できてないんですから」


「なっ!? で、では貴様は、苦しんでいる民や悪竜を放置しろというのか、この冷血女め!」


「いや、為政者としてはそういう陳情とか問題があったら、冒険者や騎士団を派遣する手配をして現場対応はできるものに割り振りするのが必要な資質ですし判断なんですけど」


「あっ」


「しかも火山の悪竜、貴方たちで退治できたから良かったって話なだけであって、もし貴方たちが手を出した結果敗北してたら、怒った悪竜が山から降りてきて麓の村や街を報復で襲撃してたかもしれないんですよ?」


「いっ」


「あと、火山の悪竜、っていうけど、あの竜が居たおかげで火山の魔物たちのバランスが取れてたんだけど、貴方たちが倒したせいで竜の食事対象だった火山の魔物たちの生息数のバランスが崩れちゃったんですけど」


「うっ」


「で、そのままだと魔物の大暴走スタンピードが起きるから、それを防ぐために騎士団と魔法師団で定期的な火山の魔物の間引きの遠征が必要になっちゃって、現在、王城の文官や騎士団、魔法師団の団員たちが予算捻出のために連日徹夜の調整会議で過労死しかけてます」


「えっ」


「あ、そうそう。その予算確保のために騎士団と魔法師団、王城では、今年の採用予定だった卒業生予定の私たちの同級生の中から内定取り消しにして予算確保に努めることになりそうです。それも何人も。――なので、周囲でいま聞き耳たててる皆さんにも内定取り消しになる人が多数いると思いますので他人事じゃないですからね!」


「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


それまで他人事として遠巻きにこの状況を眺め、ひそひそと第一王子や騎士団長子息ら、彼らが星々のように仰いでいた者たちが零落する様を、この話の途中から嘲笑うように見物していた者たちが、自分たちにも火の粉がかかってくると知って一斉に絶叫の声を挙げる。


「あと、無事に内定維持になって各場所に入り込めても、当面は予算確保と間引きのための遠征だの準備だのとかで、どこもかしこもデスマーチ進行となるの確定ですから、皆さま覚悟完了しといてください☆」


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」


大絶叫の唱和である。だがこればかりはどっちも避けられないのである。予算が、お金がないのだ。仕方ないとあきらめてもらおう。


「――で、再度言わせてもらいますが、そんな事態を招いた本人たちの一人、それも王子である貴方に何の責任も取らせず処罰もせず、そのまま据え置きすることになるとでも?」


にっこり、とほほ笑みながらそう言ってあげる。


もはや絶句し顔を青ざめさせて身体を震わせている王子だが、もしかすると青ざめて身体を震えさせているのは、内定取り消しやデスマーチ確定となったことにキレている、私たちの周囲を取り巻く貴族子女たちの怒りと憎悪を一身に受けているからかもしれない。こちらに助けを求めるような視線を向けてきている気もするが、知らんがな。自業自得というものだ。


「というわけで、散々ないがしろにされてきた上に今日のダンスパーティーでも私がエスコートされずに放置されてること知ったことで、これまでのことも含め完全にブチギレた私のお父様やお兄様たちが公爵家からの各貴族への取り成しもしないとなり、やっと陛下も妃殿下も貴方に責任取らせることが避けられないとして第一王子の廃嫡が決定した、という次第です。

 で、王子として廃嫡となった身に公爵家の娘である私が嫁ぐはずもありえないので、自動的に私と貴方の婚約解消した、ということで最初の宣言に戻ります」


orz、と地面にうずくまる第一王子(元)。


「そ、そんな・・・・・・」


唯一言及されることがなかった可愛い少女ちゃんが、取り巻きたちの突然の零落に愕然とした様子を隠せないでいる。


ちなみにいま、ダンスホールの出入り口では、内定取り消しの是非を確認しに行くのだろう、さっきまで周囲を取り囲んでいた同級生たちが慌てた様子で出ていこうとして詰まってしまっており、おしくらまんじゅう状態になっている。圧死者とかでなきゃいいけど。


そんな周囲や背景のことは放置して、最後に可愛い少女ちゃんに私は声をかける。


「とりあえず、忠告なんだけど・・・・・・貴女が周囲のだれを選んだとしても、それは貴女の自由だけど、家には一人で帰らないことをおすすめしておくわ」


「・・・え? それは、なぜ・・・」


「いや、だって・・・・・・」


ポリポリと、思わず頬を搔きながら彼女から目を逸らしてしまう。さすがにこれは言いづらかった。


「・・・こんな大騒動を引き起こしておいて、貴女、家に帰ったとして・・・・・・貴女を引き取った下級貴族のご両親が貴女のことを無事に済ませると思うの?」


愕然、とする少女。気づいてなかったらしい。

まぁ、そのことに気づける程度の貴族常識を彼女が知ってたり想像できたら、最初からこんなことにはならないように立ち回れたよねぇ。


「これ、少ないけど私からの餞別ね。できるなら彼らなり冒険者なりを連れて、家には帰らずさっさと国を出奔する方が貴女自身の身の安全のためには良いと思うわよ」


それができないなら、せめてひとまず騒動が落ち着くまではどこかに身を隠しなさい、と一般民の数カ月程度の生活費分の金貨が入った小袋を彼女に渡す。


彼女自身は単に貴族社会の礼儀や風習だとか、政治だとかわかってないままに、平民から貴族の家に引き取られ、生来の見た目の可愛らしさと平民暮らしからの天真爛漫さから王子たちの目に留まってしまっただけの、ある意味でほんとに不幸な娘だからなぁ。今後の彼女のことを考えるとちょっと同情してしまうのだ。渡した金貨も私が長年積み立ててきたお小遣いからのへそくりだが、王子との関係的には被害者である私の立場的には、さすがにこれ以上のことはしてあげられそうにない。


「じゃ、以上で私の第一王子への婚約破棄のお話は終了とさせていただきますわ、それでは皆様、私はエスコートの相手もいなかったので、この場にはふさわしくない者ですから失礼させていただきますね」


そう第一王子たちに言い終えると、私は彼らに背を向けて歩き出す。何か彼らが私に向けて叫んだようだが無視だ無視。


それにしても出入口、まだ混んでるなー。あ、そうだ。


「ねぇ、貴方、あの出入口が混んでるようだから使用人の出入り用の扉へと案内してくださらないかしら」


騎士団長の子息たちへの受け渡しに使った下級生の少年にそう声をかける。今日は疲れたし、せめてこのかわいい少年と出会えたことが唯一の救いだったと思っておこう。


あぁ、それと第一王子。

貴方との婚約解消の理由、一つだけ言ってないことがありました。


――――私、貴方や取り巻きたちのようなイケメン系より、可愛い系の年下の方が好みだったんです。こんなの、だれにも言えませんが。


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