第41話 Of course

 面倒事は嫌いなくせに、刺激的な日常を過ごしたい。


 それが僕だ。そんな面倒でクソ野郎なのが僕なのである。


 そんな僕に面倒事ではなく、刺激的な数日をくれたのが雪落ゆきおちさんである。初恋という淡い感覚と復讐劇というのは僕にとってとても刺激的だった。


 しかしそれも終わってしまった。復讐が終わった以上、雪落ゆきおちさんが僕を利用する理由もない。


 このままゆっくりと疎遠になっていくのだろう。もちろん部活の関係で出会うことはあるだろうが……これ以上仲良くなることはないんだろうな。


 告白の返事なんか、聞くまでもない。僕はきっとフラレるだろう。


 フラレたらヴィントに慰めてもらおう。アイツなら適度にからかってくれる。


 というわけで放課後になって、僕は青春謳歌部の部室に向かった。


「盟友よ」部室にはヴィントが1人いた。「昨日はどうだった?」

「終わったよ。どうあれ……決着はついたみたい」

「そうか。詳しいことは聞かないが……」そうしてくれるのはありがたい。「いろいろ、あったみたいだな。雪落ゆきおちさんが失恋したって話題になってるぞ」

「短い髪も似合ってるでしょ?」

「そうだな。俺の好みだよ」


 そんなことを言い出すので、僕はムッとして、


「譲らないよ」

「わかってるよ」ならば良い。「とりあえず……俺のことを好きでいてくれる人もいるんだ。まずは……そっちを真剣に考えてみるよ」

「そうだね。そうしたら良い」


 この間入部しに来た女子……たぶんヴィントのことが好きなんだよな。


 ヴィントだって青春謳歌部の部長だ。彼女の好きな人の像に当てはまる。


 そして彼女はヴィントのアドバイスを忠実に実行したのだ。好きな人がいる部活に入部したら良いというアドバイスに従って、青春謳歌部に入部したのだ。


「よく考えれば……僕たちはおじゃま虫?」


 ヴィントの恋路の邪魔をする訳にはいかない。


「同じ部活の仲間だろう? 邪魔なんてことはない」相変わらず器の大きい男だ。「そもそも……お前さんは雪落ゆきおちさんのことが好きなんだろ? 告白とかしないのか?」

「したよ」

「そうか。残念だったな」

「まだフラレてないし」

「おっと、それは失礼」こんな冗談を言い合えるのも、ヴィントだけだ。「まぁお互いに……恋の行く末は神のみぞ知るってことで」

「そういうことにしておこうか」


 それが良い。僕の恋の行方なんて、知らないほうが良い。そっちのほうが希望が持てる。


「それにしても……盟友よ」ヴィントが言う。「お前といると、退屈しないな」

「こっちのセリフだけれど」

「ワガハイは平凡な男さ」一人称が適当すぎる。「奇人を気取ってるだけの、つまらない男だよ」

「だから良いんじゃないか」


 それがヴィントの魅力だ。


「お前さんはワガハイとは違う。本物の狂人で、本物の面倒事を持ってきてくれる」そんなに狂人だろうか。「10年越しの復讐とか、事件の犯人とか……お前さんと一緒にいなきゃ出会わなかったよ。そういう意味じゃ、お前さんは死神だ。お前がいる周りで事件が起こるんだ」

「それ、褒められてる?」

「Of course」なんで英語で言ったんだよ。「主人公適性が高い、と褒めているよ」

「こんな主人公がいてたまるか」


 僕みたいなのが主人公の物語は、メチャクチャなものになるだろう。


 事件もない解決もない。納得もない盛り上がりもない伏線もない。そんな作品になるはずだ。


 それが僕という人間だ。


「ともあれ、これからもよろしくな盟友。お前さんといれば退屈しないからよ」

「こちらこそ、だよ」ヴィントといると、退屈が紛れる。「よろしく、ヴィント」


 結局……こいつの本名は知らないままだったな。まぁ、どうでも良いけれど。


 さてヴィントとの友情を確かめた瞬間だった。


 ゆっくりと、青春謳歌部の扉が開かれた。

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