第39話 どっちでも
包丁が突き刺さる音がした。
骨に当たる音、ではなかった。ザクッとした軽い音だった。
「……」会長は寝転んだまま
会長が避けたわけじゃない。いくら
つまり
「ドッチラケです」
「俺を殺さないの?」
「はい」ギリギリのところで思いとどまったようだ。「ですが、私があなたのことを嫌いなのは確定です」
「じゃあ、俺はどうしたら良い?」
「さっさとこの場から消えてください。そして……極力私の前に現れないように」
「了解」会長は立ち上がって、無造作に泥を払う。「じゃあね」
それだけ言い残して、会長はこの場を立ち去った。
あまりにもあっさりとしていた。ちょっとした世間話をしていただけの関係性くらいに見えた。
そんな2人の関係性には似合わないような、淡白な別れだった。
しばらくの間、僕たち2人はただ雨に打たれていた。寒いなんて思わなかった。
「……これで、良かったの?」
「……さぁ。わかりません」
10年の恨みすらもなくなるほど、犯人は空っぽだった。殺す意味がないほどに、すでに死んでいたのだ。
相手がちゃんと生きていたら、復讐を成し遂げていたのだろう。だがその意義を彼女は感じなかったのだ。
もしかしたら……このまま犯人を生かすことが、最大の復讐だと思ったのかもしれない。
「あーあ……」
復讐のために生きていたんだろうな。しかし、その復讐も終わってしまった。不本意な形で幕が下りてしまった。
不完全燃焼だろう。
だが……僕の言うことは決まっている。
「簡単だよ。キミにはまだやることが残ってる」
「……なにか、ありましたっけ?」
「明日は少年のお礼を受け取るし、部活にだって所属したじゃないか」彼女の生きる理由なんて、そこら中に転がっている。「それに……まだ僕は返答をもらってないよ」
「告白の返答ですか……」それを聞かずには死ねないな。「うーん……どうでしょう。正直言って、まったく考えてませんでした。復讐で頭がいっぱいでしたから」
僕のことを異性としてなんて見ていなかったのだろうな。
彼女は空を見上げたまま、
「でも……そうですね……」なにか、納得したようだった。「1つ質問があります」
「なに?」
「髪型……短いほうが好みですか? それとも、長いほうが?」
「
「……変な人ですね……」自覚はない。「とりあえず……本日はお騒がせしました」
「別に騒いでないよ」これくらいなら日常の範疇だ。「じゃあ、また明日」
「はい。また明日」
そうして、
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