第35話 興味ないよ

 自宅でヴィントと通話するなんて、本当に久しぶりだ。別に避けていたわけじゃないけれど……なんだか遠い存在になってしまった気がしていたのだ。


 僕が通話を開始すると、


『盟友よ』いつも通りのヴィントの声がした。『事件の概要を調べただろう?』

「なんでわかるんだよ……」監視カメラでもあるのかよ。「ってことは、ヴィントも?」

『ああ。少し気になってな』やはり僕と思考回路が似ている。『急羅巣きゅらす一家が殺害された事件についてだ』


 僕と同じ事件に行き着いているようだ。まぁ当然か。


「その長女……急羅巣きゅらす良那らなさんが、雪落ゆきおちさんと同一人物だって言いたいの?」

『もしそうだったら、どうなる?』

「家族を殺した人間に復讐するよ」僕ならそうする。「それで気になってたんだけど……犯人はどうなったの? 調べても出てこないんだけど……」

『我も同じ状況だ。どこを調べても事件の加害者が見えてこない』

「そんなこと、あるの?」

『なんらかの理由で隠されたんだろうな』


 ……


「何らかの理由っていうのは?」

『殺人鬼が年端も行かぬ子供だったから、とかだろう』それでも報道されそうなものだが。『もしも雪落ゆきおちさんの探している人間が犯人だとしたら、そいつは我らと同年代。当時は子供だったはずだ』


 小学生くらいの子供が一家を惨殺したわけだ。


「動機は?」

『不明。そもそも犯人がわからないんだから、動機なんてわかるわけもない』そりゃそうだ。『だがな……真実なんてどうだって良いんだよ』

「だろうね。別に僕たちは探偵じゃないし、雪落ゆきおちさんも探偵じゃない」

『そう。彼女の目的が復讐なら、自分が納得できればそれで良いんだ』僕もそう思う。『なんなら……今この瞬間に復讐が行われてる可能性だってあるんだ』

 

 僕たちが話している間に、雪落ゆきおちさんは犯人を見つけて復讐を成し遂げているかもしれない。


 だが、


「そうだね。そうだったら……逃げる場所を探さないとね」雪落ゆきおちさんが殺人を犯そうが、知ったことじゃない。「県外に逃げることになるかなぁ……ヴィントともお別れだね」

『そうなるかもしれないな』


 あっさり返答してきたヴィントに、


「ヴィントは僕を……雪落ゆきおちさんを止めないの? 彼女は……もしかしたら殺人をするつもりかもしれないんだよ?」


 そして僕は、その殺人を手伝おうとしている。


『悪いが、興味ないよ。犯罪だとか正義だとか悪だとか……そんなことはどうでもいい。ただ……俺の周りにいる人間が幸せなら、それで良い』

雪落ゆきおちさんは復讐を成し遂げて幸せなのかな」

『そりゃ彼女と……お前さんが決めることだろ』


 雪落ゆきおちさんが幸せなら僕は幸せだ。


 だけれど……


 本当に雪落ゆきおちさんは復讐を成し遂げて幸せになれるのだろうか。今頃になって不安になってきた。


 別に犯人が殺されようが、別人を殺してしまおうがどうでもいい。だけれど、雪落ゆきおちさんが悲しむことだけは嫌だな。


「……」

『どうした?』

「ちょっと用事ができた。出かけてくる」

『おう。俺も行こうか?』

「いや、いいよ。もしも良い感じの逃走経路があったら教えて」

『了解』

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