今日は良い天気だね

第34話 あの惨劇

 雪落ゆきおちさんの目的とは、いったいなんだろう。


 初恋の人を探すこと……彼女自身はそう言っている。だけれど……もしかしたら違うかもしれない。少なくともヴィントはそう思っている。


「……」


 自宅のベッドの上で、とくに理由もなく天井を見つめ続けた。明かりをつける気にもならずに、なんとなく寝転び続けていた。


 しばらくして、僕は手の届く位置にあるスマホに手を伸ばした。


 そして検索窓に、気になるワードを入れていく。


『10年前 河原 事件』


 それから僕らの住んでいる地域の名前。適当な検索だが、これでヒットするだろう。


 適当に画面をスクロールすると、あっさりと目当ての記事が出てきた。


『あの惨劇から10年。今できることとは』ネットニュースの信憑性って、どれくらいあるんだろう。『〇〇県〇〇地区で起こったあの事件から10年。4人家族のうち3人が殺された、凄惨な事件』


 4人家族か……


 そのうち1人が、雪落ゆきおちさんなのだろうか?


『被害者である急羅巣さん一家は、近所でも評判の仲良し家族だったという。近隣でのトラブルもない。なぜそんな家族が被害者になってしまったのだろうか』


 被害者の名前も、記憶にない名前だった。雪落ゆきおち玄羽くろば、なんて名前は記事のどこにも出てこない。

 

 偽名か、名前を変えたのか……どちらだろう。まぁどっちでも良いけれど。


 というかこの名前……なんて読むんだ……? 急羅巣……? きゅうらそう?


『事件の概要を簡単に説明しよう。その家の近所の河原に、一家の死体が転がっていた。たまたま外で遊んでいた長女の良那さんだけが生き残った』


 また読み方がわからん。


 他のサイトで調べてみると……


急羅巣きゅらす良那らな……」なんとも強そうな名前だな……苗字のほうがキラキラネームなのははじめてだ。「この人が雪落ゆきおちさん……?」


 姿が見たいと思った調べてみるが、急羅巣きゅらす良那らなさんの顔写真は出てこなかった。まぁ当然か。さすがに被害者の顔を晒したりはしないだろう。


 ともあれ、最初の記事に戻って続きを読んでいく。


良那らなさんは帰宅し、家に誰もいないことを不審に思った。どこかに出かけているのかと探し始め、そして発見してしまった』


 河原で……見てしまったわけだ。


 自分の家族の死体を。その時のショックは……想像を絶するものだっただろう。


『その後、泣きわめく良那らなさんに気づいた近所の住民が通報。狂気の殺人事件として大きく報道された』


 報道は僕も覚えている。近所が警戒態勢で、外に出ることもできなかった。殺人鬼がうろついている可能性もあったので、まぁ当然だろう。


「……あれ……?」そこで、僕はふと思い出す。「そういえば犯人って……どうなったんだろう……」


 殺人鬼がうろついているから外に出られない、ということは……当時は捕まっていなかったはずだ。


 その後……どうなったんだろう。その後は……どうなったのだろう。逮捕されたのだろうか。それとも逃げおおせたのだろうか。


「逃げ切ったから、雪落ゆきおちさんが探しに来たのか……?」


 法の裁きを受けなかったから、自分から裁きを下そうとした? あるいは罪を償って、それでも納得できなかった?


 記事を読み進めてみるが、


「……犯人についての情報は、ない……」


 なぜだろう。被害者よりも加害者のほうを追求したほうが良いと思うが。


 ……


 わからん。いったい10年前の事件はどうなったのだろう……


 そう思っていると、


「……ヴィント……」


 ヴィントから着信があった。

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