第33話 惚れちまうもんなのさ

 ヴィントが言う。


「ちなみにだが、犯人に心当たりは?」

木五倍子きぶし生徒会長」

「えらく即答だな」

「そうだね」


 仮に10年前の事件の犯人がこの学校にいるのなら……それは会長かヴィントだ。あるいは、僕。


 10年前の事件……会長ならやりかねない。初恋の人とか言われたときに、彼はいろいろとごまかしたのだから。


 かなり焦ったのだろう。だから波風を立ててごまかした。


「証拠はなにもないけどね。それに疑問もある」

「子供とはいえ3人も殺して、学生生活を謳歌できるのか」

「そう、それ」やはりヴィントと僕の思考回路は似ている。「少なくとも少年院とかに行くことになると思うけれど」

「ああ……だが、おそらく犯人は日常生活を送っているんだ。そうじゃないと……雪落ゆきおちさんがこの学校に来た理由がわからない」

 

 犯人が死刑になっていたり、まだ塀の中にいるのなら、雪落ゆきおちさんが探しに来ることはないだろう。


 雪落ゆきおちさんが来たということは、このあたりにいるのだ。事件の当事者しか知らない情報があるのだろう。


「……まぁ、想像の話を突き詰めても仕方がないか……」ヴィントの言う通りだろう。「まぁ……お前さんが覚悟の上なら、なにも言うまい。俺も……別に復讐を否定するわけじゃないからな」


 その言葉の瞬間、ヴィントの目線が僕から外れた。


 僕の背後を見ていた。そこに何があるのかと思って振り返ると、


雪落ゆきおちさん……」


 雪落ゆきおちさんがこちらに歩いてきていた。


「ここにいると思ってましたよ」


 そう言った雪落ゆきおちさんの笑顔は……いつも通りの笑顔だった。穏やかで柔らかくて、太陽みたいな笑顔だった。


 その笑顔が怖いと感じるのは、僕たちが内緒話をしていたからだろうか。


雪落ゆきおち女史」ヴィントがいつもの調子に戻って、「どうした? 俺がいなくて寂しかったか?」

「そうですねぇ……会いに来ちゃいました」冗談なのか本気なのか……「こんなところで、なんのお話ですか? 私がいるとまずいお話ですか?」

「そういうことになるな。男同士でしか話せないこともあるんだよ」


 こんなときでもポーカーフェイスなのがヴィントのすごいところだ。僕だったらアタフタして対応なんかできない。


「どんなお話なんですか?」

「ああ。俺と盟友……どっちが雪落ゆきおち女史にふさわしいかという話だ」なにを言い出すんだコイツは。「まぁ男子高校生なんてのは単純なもんでね。雪落ゆきおち女史みたいな美女が現れたら、惚れちまうもんなのさ」


 そうだけど。僕はコロッと惚れたけれど。他の男子も……多くの人が惚れたんじゃないだろうか。


 ヴィントは……どうだろう。恋多き男だからな。


「それで雪落ゆきおち女史。我らを探しに来たのか?」

「ああ……はい。先程の女性が戻ってこられまして……こちらをヴィントさんに渡してほしいって言ってました」

「……ふむ……」ヴィントは雪落ゆきおちさんから紙を受け取って、「入部届……?」

「はい。『これからもアドバイスを受けたいから、入部したい』って言ってました」

「なるほど……」入部届が必要なのかよ。僕は出してないぞ。「受理しよう。そういえば入部届なんてものが必要だったな……忘れていたよ」

「私たちも提出したほうが良いですか?」

「そうしてもらったほうが良いみたいだな」


 というわけで、僕たちは正式に青春謳歌部に所属することになった。


 ……


 なんか僕の青春……不穏になってきたな。

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