第32話 聞かなかったことに

 初恋の人を探しているという雪落ゆきおちさん。


 だが、その言葉は真実ではない。そう僕は思っていた。


 僕は言う。


雪落ゆきおちさんが……10年前に殺された家族の復讐をしようとしている。だから犯人を探している」

「10年前、河原という単語を出せば犯人が動揺すると思った。だから初恋の人というウソをついて、学校を回っている」

 

 そう言ってから、ヴィントはおどけたように両手を広げた。


「可能性の話さ。そんな怖い顔するなよ」おっと……いつの間にか険しい顔になっていたようだ。「もちろん、本当に彼女が初恋の人を探している可能性だってある。事件の前に出会っていたのなら、時系列に問題はないからな」


 逆に事件の後に出会っていたのなら、時系列がおかしい。


 あれ程の警備の中、少年と出会うなんて不可能だ。子供が近寄れる状態じゃなかったからな。


 ヴィントは旧校舎に体重を預けて、


「盟友よ。お前さんは気づいていただろう? お前さんほどの男が、その可能性に行き着かなかったわけがない」

「まぁ、可能性は考えていたよ」雪落ゆきおちさんが復讐者だという可能性。「でも関係ないよ」

「……?」

雪落ゆきおちさんの目的が復讐だとしても、僕の行動は変わらない」


 僕は彼女の幸せのために行動している。気持ち悪いと言われようが関係がない。


 彼女が復讐を成し遂げて幸せだというのなら、僕はそれに協力しよう。たとえどんな未来が待っていたとしても。


「そうか……お前さんは、そういうやつだったな。相変わらず、危なっかしくて仕方がない」危なっかしいのは自覚している。「まぁ雪落ゆきおちさんの目的が本当に復讐かどうかなんてわからねぇ。気楽に行こうぜ」

「そうだね」


 どっちでも良いけれど。


 なんなら僕は……雪落ゆきおちさんの目的が復讐なら良いと思っている。


 だってもしも復讐が目的なら、彼女に初恋の人なんていないのだから。僕にだってチャンスがあるのだから。


「お前さんはいつもそうだよな。惚れた相手には……とことん一途だ。怖いくらいだよ」

「僕がこんなに惚れた人間は、ヴィント以来だよ」

「そうだろうな」肯定されると思っていなかった。「その一途さ、いつか身を滅ぼすぞ。気をつけたほうが良い」

「滅びたって構わないよ」


 それで彼ら彼女らが幸せになれるのなら、なんの問題もない。


「やれやれ……」ヴィントはため息とともに、「変わんねえなぁ、お前さんは。俺が憧れた……あのときのままだ」

「……?」

「今のは聞かなかったことにしてくれ」

「じゃあ、そうする」


 ヴィントが言うのなら、そうしたほうが良いのだろう。


 それにしても……復讐か。


 さっさと打ち明けてくれたら、協力するのに。

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